格闘技はバイオレンスなのか? 菊野選手には、崇高な武道精神が宿っている
お題………大好評! 9・2巌流島ADAUCHIの総括と裏側
先の巌流島大会。僕には試合よりも心にひっかかったことがあった。
それは試合後、菊野選手が闘技場の上でマイクを持ち、挨拶した、その内容。発言を聞いてびっくりしたのだ。
それは、「格闘技はバイオレンス」と口にしたことにある。
これには驚いた。
僕はかつて1年半ほど、月刊誌「ボクシング・マガジン」の編集部に在籍したことがある。
いま思い返せば、手技の打撃の奥深さ、技術、コンビネーションをリングサイドの記者席等で目の当たりにしたことで随分、格闘技の勉強になった。それは総合格闘技を取材する際、本当に役にたったが、取材してきた10代のプロ選手が目の前で見た試合で昏倒。その後、亡くなってしまい、頭部をボクシンググローブで打たれ続けることの恐ろしさを目の当たりにした経験がある。
日本のプロボクシング界では、いまでも数年に一人は試合が原因で亡くなり続けている。コミッションは日頃からしっかり選手を管理しているし、早いタイミングでレフェリーストップもかけている。亡くなる人が出ても犯罪性はないから、警察沙汰になることもないし、事故がスポーツ新聞等で大きく大きく報道されることもない。でも、ボクシングがスポーツだと言うなら、それは大きなリスクを伴う競技だと言わざるを得ない。
でも、僕が好きなグレイシー柔術は、最初に「柔術はアート・オブ・セルフディフェンス(護身術)だ」とホリオン・グレイシーから教わった。相手を傷つけず、自分も傷つかずに勝つことを理想に、ノールールのオクタゴンに出ていくホイス・グレイシーの姿は、父・エリオさんの理念を体現していた。
近年の総合格闘技では、ボクシングの技術が不可欠になっている現状は、明らか。菊野選手も沖縄拳法空手の理念を用いたパンチで、確実に対戦相手をKOしている。
打撃でKOすることが暴力で、マウントパンチからチョークや腕十字で決めることは非暴力だ、などと言うつもりはないが、僕は格闘競技の場で、相手に対し尊敬の気持ちを持てば、それは暴力ではないのではないか、と思いたいのだ。闘う選手に対して、見る者が持つ尊厳の気持ち。それが僕の中にはる。
試合前の選手は闘うモードになっているので、態度が荒々しくなる場合もあるはずだが、試合後の礼、試合後の抱擁、試合後の握手、両選手のセコンド同士の笑顔の挨拶があれば、闘いは暴力ではないという願いが僕の中にはある。
菊野選手は、こう言っていた。
「本当に今日、舞浜まで来ていただいて、ありがとうございます! この巌流島は今までの格闘技とは違います。異種格闘技、世界中の異種格闘技と闘う…。今日本当にカポエイラとね、闘うなんて人生でそうそうあることじゃありません。総合格闘技のリングじゃなかなか会えないと思います。
そして無差別…。大きな相手に向かっていく。メチャクチャ怖いです。メチャクチャ怖いです。本当に本当にもうずっとですけど、ずっと怖い思いしてます。だからこそこの巌流島は勇気、勇気の大会だと思っています。沖縄拳法空手から一緒に出てくれた種市も、最高の勇気を見せてくれました。ヒザがボロボロで、しかもいきなりプロデビュー戦でクンタップ。ムエタイのチャンピオンと闘う。彼はほかにも色々、障がいがいっぱいあって、それを乗り越えてこの場にたどり着いて、あんだけカッコいい試合しました。
もう本当にルールの中で強さを競うんじゃなくて、この巌流島は勇気を見せる、何かに挑戦する、そしてそれを子供達に伝える。できれば大人の皆さんにも、日頃の生きていく勇気になりたい、僕らが。今日、僕の子供も見に来てくれてます。子供に勇気の背中を見せたい。今日ボードを持って回ってくれた子達にも、勇気の背中を見せたい。
大人が、僕らが、踏み出す。勝ち負けはもう、そりゃあもう、しょうがないです。相手が強ければ負けることあるんですけど、でも、立ち向かっていく勇気は、見せたいと思ってます。この巌流島は、そういう舞台です。ぜひ、これからも、できれば、子供も連れて。
あのお本当に、バイオレンス、です、格闘技はバイオレンスです。でも、だからこそね、ストレス、怖いとか、痛いとか、苦しいとか、そういう本能的なストレスと向き合います、格闘家は。だからこそね、格闘技だからこそ、伝えられることがあるんです。サッカーや野球には出来ないこと、格闘技にはあります。だから、そしてこの巌流島をね、もっともっとそこを伝える舞台にしていきたいです。
どうか皆さん、力を貸してください。これからも巌流島をよろしくお願いします! ありがとうございました!」
菊野選手の挨拶は、とても心に沁みた。菊野選手の言葉には、格闘技への愛と、自分が闘ってる舞台である巌流島への愛があふれている。子供達への愛も、人間愛にもあふれている。
だからこそ菊野選手の、大きい者に立ち向かっていく勇気、菊野選手の闘いは、僕はバイオレンスではないと思いたいのだ。菊野選手には、崇高な武道家の精神が宿っていると信じたい。
9・2巌流島のレポートはコチラ⇒
『ADAUCHI 2017 in MAIHAMA』