GANRYUJIMA BLOG巌流島ブログ

猪木ボンバイエの気づき。地上波時代とSNS時代の違いとは?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
文◎谷川貞治 (イベントプロデュサー)

文◎谷川貞治 (イベントプロデュサー)

 

皆さん、新年あけましておめでとうございます!

昨年の『INOKI BOM-BA-YE×巌流島』のご観戦、ご視聴、誠にありがとうございました。また、参加して頂いたファイター、スタッフ関係者の皆様には心より御礼申し上げます。

私自身は時間もなく、思ったことの半分くらいしかできませんでしたが、概ね評判も良く、次に繋がった大会になったと自負しています。また、久しぶりに両国クラスのイベントをやるにあたり、いろんな気づきもありました。それを今回、反省を含めて書こうと思います。

まず、『INOKI BOM-BA-YE×巌流島』をやるにあたって、まさか猪木さんが亡くなると思っていなかったこともあり、葬儀が終わった10月末頃は近くにいる関係者でさえ、何をやるか分かっていませんでした。それもそのはず、プロデューサーの私でさえ、全くの白紙。漠然と「令和猪木軍」構想しか考えていなかったからです。

猪木さんゆかりの選手は、50代に差し掛かっていることもあり、「令和猪木軍」と猪木さんを結びつける作業が大変だなと想像していたこと。それと同時に新日本プロレスと RIZINを味方につけること。もし、味方につけられなければ、思いっきり対立して煽ること。それが最初の構想でした。

わずか残り2ヶ月という時間のなさ。でも、自信もありました。

自信というより、そういう習性が身についているんです。私が元々やっていたのは、格闘技雑誌です。雑誌というのは、校了した時は次の台割は何も決まっていません。真っ白の白紙です。でも、次の締め切りまで「ああしよう、こうしよう」「これがダメだったら、次の手はこうだ」と、もがけばもがくほど、面白いものができていくのです。概ね、物作りというのは、雑誌でも、番組でも締め切りとの闘いであり、締め切りがあるからこそ、良い作品ができるのです。

だから、11月頭の時点では白紙だったものの、1ヶ月後には全く考えていたものとは違いましたが、良いカードが並んだと思います。最初はWWEに頼んで、中邑真輔に猪木さんが持っていたWWE世界マーシャルアーツヘビー級タイトルマッチをさせられないかとか、グレート・O・カーンをはじめとするプロレスラーに格闘技の試合をやらせようと考えました。

FlOal3TaMAQOhiU

猪木さんの追悼でもいろんなことを考えましたが、実現しないことでその度に方向転換を迫られました。逆にメルヴィン・マヌーフやラファエル・ロバト・ジュニア、それに加えて岩﨑大河選手や江幡秀範選手なんて、全く最初は考えていなかった選手の嬉しい参戦もありました。自分の感性さえ信じていれば、あれこれもがいていくうちに良いものができることは、ずっと経験上やってきたことです。 RIZINでさえ、1週間前に平本蓮やYUSHIなど、追加カードを出して、もがきますよね? それが当代のプロデューサーの習性なのです。

でも、今回一番気付いたのは、そのやり方が根本的に間違っていることです。我々の時代は地上波全盛の時代。今はSNSがあらゆるプロモーションの根幹となっています。地上波全盛の時代とSNS全盛の時代の違いは何か? それを今回、思い知らされました。

SNS全盛の時代は確かに情報は速いです。しかし、広がるには思ったより時間がかかります。特に深さを追求したら、時間もかかるし、内容も地上波に比べて格段に伝わりにくい。大道塾の市原海樹の30年越しのリベンジや、猪木さんのミスターXや極真ウイリー戦なんかは、歴史や背景などの伝える方法は幅広く、その濃さは揺るぎないソフトなのに、SNSでは時間がかかる。恐らく、ほとんど伝わっていない気がします。アントニオ猪木とは何か? もそうでしょう。あれだけのコンテンツなのに、SNSではそれが伝わりにくく、広がらない。おそらく濃さの部分にはSNSは向いていないツールなんでしょうね。

地上波という不特定多数の視聴者が多数いるツールでは、それでも広がりという部分については、伝えやすかった。我々がやっている専門誌的なコアな情報を関心のない人にもうまく届けられるノウハウを持っていました。不特定多数の薄い視聴者は、そんなマスの伝え方に対して、一部でコアの面白さを発見していく土壌ができていたと思うのです。

その反面、今回の『INOKI BOM-BA-YE×巌流島』で一番反響があったのは、私がぱんちゃん璃奈の事件について触れた時です。あそこにSNS時代のプロモーションが象徴されているような気がします。あのぱんちゃんの件は、私に対して何人も噛みついてきましたが、それも次の情報、その次の情報で忘れ去られていく。大道塾の市原海樹や極真空手、ミスターXは説明するのに時間がかかり、広げるのに時間がかかりますが、スキャンダルは一瞬のうちにプロモーションとなるのです。

いつも時代を先取りする猪木さんはその点も分かっていて、タイガー・ジェット・シンの新宿伊勢丹襲撃事件、海賊男、TPGたけしプロレス軍団、藤波vs長州や橋本真也vs小川直也の抗争など、昭和の時代から何度も炎上商法を使って話題を作りました。改めて、そのセンスの偉大さが分かります。猪木さんなら、今、現役でもめちゃくちゃ凄いSNSファイターになっていたでしょう。

FlUER96aEAICbN2

我々の時代はコンテンツを生み出す人、商品を作る人が一番偉くて当たれば大金を手にする時代でしたが、今は立場が逆転し、プロモーターやクリエイターより、プロモーションのプロのほうが偉いとされています。お金も利益の半分近くをプロモーションする人がとっていくという話もよく聞きます。我々の時代はせいぜい10%~20%でした。これじゃインターネットビジネスが大きく成長するのもよく理解できます。

そう考えると、今は自分が伝えたいものをどうやって伝えるかというより、伝えやすいものを作った方が成功しやすいのが分かります。何を作ってどう伝えるかではなく、プロモーションしやすいマッチメイク、早く広く伝わるマッチメイクを優先して早く情報を出す。ギリギリまでサプライズを狙って練り上げるよりも、できるだけ早く物事を発表して繰り返してプロモーションする方が全然得策だということが分かりました。粘って良いものを作ろうではなく、早くプロモーションしやすいものを作ろう! なのです。

私は正直、ろくに事情も知らない全くのアカの他人が平然と人を傷つけるSNSがあまり好きじゃありませんが、今の時代はスマホ一つの中に情報が氾濫し、そこでビジネスが完結しています。これを追求しないと、ダメな時代なんでしょうね。我々の時代はリングサイドに芸能人やスポーツ選手がいることがステータスでしたが、今はそんなことより、YouTuberとか、インフルエンサーがたくさんいることのほうが大切だそうです。私は名前さえも知りませんが。ラウンドガールも、容姿以上にフォロワーの数の勝負だといいます。

おそらく私が紅白を視聴率で負かした曙やボブ・サップは、地上波向きのファイターで、PPVは全然違うんでしょうね。今、SNSで圧倒的に数を持っているのは、 RIZINでも、新日本プロレスでもなく、ブレイキングダウンだと言います。正直、あまり視野に入ったことさえありませんでしたが、そういう時代なんですね。そんな経験を目の当たりに体験し、プロモーションとコンテンツについて考え抜き、次回の巌流島に繋げていこうと思います。

とりあえず、そんなことを思いつつ、『INOKI BOM-BA-YE×巌流島』の見逃し配信(3000)をお楽しみください。

異種格闘技「巌流島」 ー名勝負セレクションー