GANRYUJIMA BLOG巌流島ブログ

レロの一撃必殺ボムは是か非か。巌流島で「武道とは何か」を再考する

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文◎柴田和則(巌流島 海外選手ブッキング担当)

文◎柴田和則(巌流島 海外選手ブッキング担当)

 

12.28INOKI BOM-BA-YE×巌流島」。急遽、10月の途中から大会の制作が始まり、時間がないながらも、2ヶ月でこのカードはそうそう揃えられないだろう、と自負するラインナップになったと思う。

いつも谷川さんのマッチメイクのお手伝いをさせてもらっているのだが、マッチメイクの面白さは、想定して組み込んでいた選手がまさかのナシになり、一方でまったく想定外だった選手が不意に登場するという、一喜一憂にある。まさに、捨てる神あれば拾う神あり。計画通りにいかず、これはもうダメなんじゃないか……と頭をよぎったところに訪れる、ピンチの中のチャンス。これがあるから格闘技も人生も面白い。

今回もその連続だった。なかでも、まったくの斜め上から急降下してきたのが、柔術世界王者にして元ベラトール世界王者のラファエル・ロバト・ジュニア。

SNSでも「なぜロバトが巌流島に?」「RIZINと間違って巌流島に連絡してしまったのでは?」と不思議がる声があがっていた。我々も同じ気持ちなのだから無理もない。

経緯はこうだ。まず、宇佐美秀メイソンの対戦相手にブアカーオ・ポー.プラムックを構想したが交渉がまとまらない。そこでお互い危険な匂いのする男対決として、元シュートボクセのアンドレ・ジダをあたってみた。しかし、ジダも巌流島での試合はやる気満々なもののタイミングが合わず12月は試合ができない。最終的にメイソンの相手はアルバート・クラウスで決定した。

これでジダの件は終了。なはずなのだが、人生いろいろなことがある。数日を経て、またジダからなにやらメッセージが届き、「チームメイトが君らの大会で試合したがっている」という。

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選手の売り込みはよくあるが、そのときはもう大会まで時間もなく、無名の若手のリサーチをしている場合ではない。「ありがとー」と流そうかと思ったが、送られてきた写真のチャンピオンベルトを見ると「BELLATOR」の文字が。ググってみると、あのゲガール・ムサシにも勝っている無敗の元ベラトール王者ではないか。

なんたる棚からぼた餅! さっそく交渉を進めて、条件面でも折り合いがついた。しかし、ここで一難去ってまた一難。ロバトと戦う相手がいない! この無敗のツワモノとやりあえる相手を見つけないと。あれこれ思案する中、とりあえずツイッターで対戦相手を公募してみたところ、「大道塾の岩﨑大河がいいのでは?」というツイートがあがってきた。すぐにそのアイデアをパクリ、谷川さんが大道塾と交渉。岩﨑選手としてもぜひ、ということで急転直下でカードが決定。あれよあれよという間に「空道が30年ぶり世界にリベンジ」というドラマができあがった。

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そんなこともあって最終的に、ラファエル・ロバト・ジュニアの他にも、ジョシュ・バーネットやメルヴィン・マヌーフ、アルバート・クラウスなどのレジェンドが集う大会となった。

さて、ここからが本題。そんな格闘技スーパースターズの中でひとり気を吐いたのが、巌流島の常連外国人のマーカス・レロ・アウレリオであった。カポエイラの達人であるレロは、テコンドー全日本大会13連覇の江畑秀範選手と対戦。

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ファンも我々関係者もきっと江畑選手当人も「カポエイラvsテコンドー」の華麗な足技対決を期待していたこの試合。しかして、この試合は開始早々、レロが場外へのジャンピング・ノーザンライトボムで一撃KOするという、誰も予測しえない結果で終わった。

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カポエイラというより、どうみてもプロレス技……。我々はいったい何を見せられているのか? ファンも関係者も、きっと江畑選手当人もそう思ったことだろう。

このフィニッシュシーンは「危険な技だ」ということで、ファンやメディアの間で賛否両論を呼んだ(というか、おもに否)。

私も会場で見ていて「なんてことをしてくれるんだ」と青ざめた。そして「そうだ。レロはこちらがコントロールできないザ・自由人だったよな」と、久しぶりの大会開催で思い出していた。

そしてまた、そういえば、レロが数年前のインタビューでこんなことを話していたのを思い出した。

レロ: 「カポエイラには多種多様な技が存在します。非常に危険な技もあれば、エンターテインメント用の見せる技もあります。舞台でカポエイラを披露するときは、アクロバティックで舞台に映える動きを使い、実戦で闘うときには伝統的なカポエイラの戦闘用の技で闘います。生き残るためには何でもやる。それがカポエイラ本来の哲学です」

そうだ。レロは、奴隷たちが自由になるための殺しの武術「カポエイラ」の正統後継者であった。

日本柔道の始祖・嘉納治五郎が「一本」にこだわったのは、投げは地面に打ち放ったら一撃でKOできる必殺技だから、と聞いたことがある。とすれば今回のレロの投げには、武術的に同じフィロソフィーがある。身を守るための一撃必殺。真のマーシャルアーツ。 巌流島の転落は必ずしも崖だけとは定義されておらず、それはサムライのいくさ場での段差であったり、現代のストリートにおける高低差などである、というのが私の解釈だ。

我々は今回浮かれていた。お祭り騒ぎで呆けていた。有名スター選手の来日に浮き足立っていた。

巌流島の常連外国人、マーカス・レロ・アウレリオだけは違った。

「巌流島は武術・実戦とは何かを考える場ではなかったのか?」

「武道の哲学を追求するイベントではなかったのか?」

「お前らは俺たちがやってきたことを忘れたのか?」

そこでレロが体現してみせた強烈なメッセージ。あの大会で一番の衝撃を残したのは、ある意味ではレロであった。

私は内心、そんなレロが誇らしくもあった。

最後に。巌流島は動画コンテンツ、配信コンテンツとして世界一クラスに優れているな、と改めて確信。今回は集客面でうまくいかなかったが、可能性は無限大。今後いくらでも目にもの見せられる。ジョシュ・バーネットもアメリカでやるべきだと言っているし、行こうじゃないか、世界。

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そんなわけで、まずは下記で12.28大会の見逃し配信をどうぞ。

異種格闘技「巌流島」 ー名勝負セレクションー