「小さい頃から、デカイ相手にビビっていた。でも実際は試したことがない。巌流島は自分にとって、挑戦の場です」 無差別級のロマンに挑む、菊野克紀インタビュー!
巌流島に登場して以来、見違えるような、神がかっている菊野克紀。しかし、今回の対戦相手は自分の体重倍の金網MMAのチャンピオン。「小よく大を制す」という無差別級のロマンは果たして現実で起こり得るのか? あまりにリスクの高い危険な賭けに、勇気を持って挑戦する菊野の境地を聴け!
僕はアンブリッツをビビらせないと勝てない!
————前回大会のケビン・ソウザ戦は“リベンジ”というモチベーションがあったと思うんですけど、今回の菊野さんのモチベーションは何ですか?
菊野 僕にとって巌流島はずっと挑戦なんですよね。初めて巌流島に出たときもそうですし、トーナメントに出たときもリベンジもそう。そして今回は“無差別級”という挑戦。常にチャレンジすることがすごく怖くて、面白い。
————体重が倍の選手との試合って、普通考えないと思うんですけど、それも挑戦のひとつ?
菊野 そうですね。競技的に見たらありえないことなんですけど、競技って枠を取っ払ったら、当たり前のことだと思うんですよね。で、その当たり前のことにチャレンジしてみたいんです。昔から「デカいやつには勝てない」っていうコンプレックスがあるので、その恐怖心に立ち向かいたい。もうあと何年も現役で格闘技がやれるわけじゃないので、このタイミングでチャレンジできるのは幸せだなって思います。
————体の大きい相手へのコンプレックスは空手を始めてから生まれたものですか?
菊野 それはもう子どもの頃からですよね。デカいやつを見たらビビっちゃう自分がいる。勝てないと思ってしまう自分がいる。でも実際どうなのかは、ちゃんと試したことないんですよね。だって、これまでは挑戦する前にビビって、闘わなかったですもん。柔道や極真空手では無差別級の試合もあったんですけど、この巌流島ルールという、顔面殴り有り、パウンド有りのなかでチャレンジするのは、自分の中でとても意味があることです。
————体重無差別の試合は極真以来ですか?
菊野 そうですね。
————そのときはデカいやつに押されるっていう恐怖があったんですか?
菊野 柔道や極真空手のときは、顔面を殴られることがなかったので、今回のような怖さはなかったですね。もちろん突きが重たかったりだとか、組まれたら逃げられないとか、そういう圧倒的な差は感じましたけども、今回は本当に大ケガをする可能性がある。今日も110kg以上の選手と練習させてもらって、本当にささいなことで首が「メキメキ」っていったりする。これが本番だともっとお互い本気でやるわけで。しかも相手のアンブリッツ選手は140kgでもっと重いので、すごく怖いですよね。鉄のハンマーで殴られるようなものだと思います。
————腕一本で40kgくらいありそうですもんね。
菊野 当たったら、すんごい威力だと思いますよ。それって攻撃力でもあって、防御力でもあるんですよ。140kgの人のパンチを70kgの僕が食らうと、相当なダメージだと思うんですよね。もし僕が50kgの人をパンチで殴ったら、下手したら死ぬぐらいのものだと思うんですよ。僕とアンブリッツ選手は、それ以上の差があるわけで。
————攻撃力だけに注目しがちですけど、肉の壁は防御力にもなるわけですね?
菊野 僕の突きも前より重くなっていると思うんですけど、それでも140kgの人にどれだけ効かせられるか。重い人に打つと跳ね返される感覚があるんですよね。それでもタイミングと角度でちゃんと当たれば効くと思うんで、そこを狙っていかないといけないですね。
————体重が倍ある相手にパンチやキックをしても、はたして効くものなのかなぁと思ってしまいます……。
菊野 正直、効くかわからないです。それでも殴ることで、人ってやっぱり色んな意識が散るので、殴ること自体は絶対に無駄にはならないですよね。いきなり顔面を狙いにいくと、それだけ距離が詰まってしまうので、城攻めのように理詰めで彼の城壁をクリアして、城門開けさせて攻めるってことをしなきゃいけないですよね。今まではドカーンとぶっ壊すようなイメージでやってきたんですけど、今回は相手が強大すぎるので、ドカーンといっても跳ね返されちゃう可能性が高い。彼の城壁を崩していくという戦略を実行しなければいけないです。
————この試合は菊野さんにとっても、レベルアップできる闘い?
菊野 はい。だからこそこの試合を選びましたし、この試合をちゃんとクリアできる、つまり戦略を実行できる心ができれば、たぶん誰が相手でも、どんなスタイルの選手でも、自分の力を発揮できると思う。それができたらすごく強くなれると思うので、この試合の意味はとても大きいです。
————今回の秘策は“水のことわり”ということで、大きい相手に自由に合わせる水のように、変幻自在に対応するのがテーマだと思います。大きい相手に力やパワー以外にどう闘うのでしょうか?
菊野 柔らかさであったり、無駄のない動き、そして合理的な動き。僕はアンブリッツ選手よりはスピードがあると思うんですけど、基本的にはスピードのある選手ではないんですよね。なので僕はスピードで対抗する、パワーで対抗するというよりは、合理的な体の使い方や戦略で勝負する。あとはそれをやりきる勇気と覚悟と自信を持つのが、僕の闘いにおいて重要なことです。
————勇気と覚悟を持って相手にぶつかっていく?
菊野 本当に勇気いりますね。ミット打ちの時も組まれたり、相手のパンチを一発でも食らったらまずいって感覚でやっているので、すごく疲れます。その場に留まっていたら掴まれて殴られるので、距離を保たなければならない。戦略を実行する心のすり減るような緊張感があって、勇気がいる。僕が攻められるってことは、相手も攻められる状況になるので、その瞬間は覚悟を決めなきゃいけない。でも不安になっていたら、入っていけないので自信を持ってやらなきゃいけない。そういう自分との戦いになりますね。
————沖縄拳法空手の山城師範の秘策を言える範囲で教えていただけないですか?
菊野 戦略を実行することですね。今まではそれを無意識に落とし込むような稽古をつけてくださっていた。この稽古をしておけば、自然と戦略的に闘えるよっていう。だから僕はあまり考えずに攻めればよかったんですけど、今回はそれだと足りないので、意識的に戦略を実行しなくてはいけません。
————戦略で大きな城を崩す、と。
菊野 僕はアンブリッツ選手をビビらさないといけないんですよ。「こいつに近づいたらやられる」って思わさないと、ガンガン前に来られてしまうので。やばいって思わせる恐さを見せつつ、でも冷静に戦略を実行していくっていう高いレベルのものが求められます。
————菊野さんは5月6日の巌流島で、お客さんに何を見せたいのでしょうか?
菊野 僕にとって巌流島は挑戦の場所。単純にデカいやつに向かっていく挑戦を見てもらいたいですし、今までの自分よりも一歩成長する自身への挑戦を見せたいです。
————まさに己に克つと?
菊野 そうです。勇気っす。
【沖縄拳法空手・山城美智師範インタビュー】
今までは自然体で勝てたけど、今回ばかりは戦術勝負になる
————アンブリッツ選手との無差別級マッチの勝機はどこあたりにありますか?
山城 勝負は城攻めと一緒なので、欲をかきすぎずにいかないとね。一発で決めるとかではなく、いかに戦略的に相手の門を開けて、本丸をとるか。そういう勝負ができれば勝てる。それができなければ、相手が勝つ可能性が高い。
————攻撃のポイントは?
山城 転がる球は強いんですよ。だけど止まってる球は、そんなに強くない。相手が転がり始めた頃には負けてしまうので、転がる前に勝負を決める。
————ファーストコンタクトで決着がつく気がしないでもないのですが。
山城 相手が菊野をどう評価し、こっちがどう動くと予想しているか。それが勝負の決め手。今まで僕らがしてきたものを、そのままデータとして受け取っていたら僕らの勝ち。次の菊野の闘い方は、これまでのものとは違うから。
————体重差倍という階級差についてはどう思いますか?
山城 階級の違いというのは強みですよ。なぜこんなに全ての競技で階級制ができているのかというと、体重によって実力差が埋まってしまうから。体重のハンデがあったら、実力があっても簡単に負けてしまうんですよ。軽い階級の選手は、重い階級に簡単に負けちゃう。逆に下の階級が増量したって、簡単には勝てない。
————体重を同じにしてもやはり勝てない?
山城 物理的な強さがあるので。例えば軽いほうのパンチが100として、重い選手が200あったら、100のパンチなんてのは、200の選手からすると普段ジャブを喰らってる感覚だと思う。それに対して、もし毎日ジャブで50しか喰らってない人が、いきなり200を喰らったらひとたまりもない。でしょ? だから今回のアンブリッツ戦は、すごく厳しい試合だと思いますね。まぁ、できるだけのことをやっていくしかないですね。
————非常に過酷な闘いになりそうですね。
山城 なぜ巌流島はいつもこんなしんどい挑戦をさせるんですかね?(笑)
————申し訳ありません……(笑)。ファンにも選手にも、毎回異なるテーマを提示できればと思ってやっています。
山城 すごく面白いと思うんですよ、観客だったらね。ただ、責任者の立場としてはこんなきつい闘いはないなぁ。
————恐縮です……。
山城 どんな格闘技でもそうなんだけど、偶然の勝ちってほぼないんですよ。やっぱり勝つ原因があって、勝つ理由を突き詰めた人間が勝っている。運悪く負けることはあるんですよ。ただ偶然に勝つことはない。だから勝つための技術を積み重ねて、反省点を直していくという作業が大事。菊野はずっと変化し、成長し続けているので。
————前回のソウザ戦は20cmくらいリーチ差があって、今回のアンブリッツ戦は70kgの体重差があります。
山城 武道として体格差が関係ないって言う人がいますけど、やっぱり人間というのは、地上に生きてる物理的な存在なので、大きければ強いに決まってるんですよ。そこを超えるとなると、人間の知恵が必要ですよね。知恵を体で理解し、体得した知恵にする。まぁ、あとは当日の闘いを楽しみにしていてください。
————では大会当日を楽しみにしています!!
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『WAY OF THE SAMURAI 2017 in MAIHAMA』