【相撲vsバレーボール】自分にできるのは相撲の闘い方だけ! 元小結・海鵬がバレーとの未知の異種格闘技戦に挑む!
7.31有明コロシアム大会の全カードが出揃った。最後に発表されたのが海鵬の対戦カード。相手が決定するまで待たされていた海鵬が、満を持してインタビューに登場。昨年9月に錦糸町から中野坂上に移転した海鵬のジムで、話を聞いた。(聞き手/安西伸一)
今度出るのは前回負けたから。もう一度やってみようと思った
――対戦相手がコンゴ出身のガブリエル選手に決まりました。フランス国籍を持ち、バレーボール選手だった時の映像が、この巌流島のHPにも掲載されています。フランス代表の一員だったこともあるとか。
海鵬 対戦相手を聞いたのは7月に入ってからですね。なかなか決まらなかったので、決まらないなら出場断ろうかとも思ったんですけど。対戦相手は誰でもいい感じでした。試合までもう1カ月切っていたので。
――昨年7月に出場された時は、開催場所が国技館だからオファーを受けた、とも話されていましたが。
海鵬 ほとんどがそういう動機でしたね。今度出るのは、去年負けたからです。
――両国でジミー・アンブリッツに敗戦して、気持ちが沈んだ部分はありましたか?
海鵬 う~ん、1Rの最後30秒くらいで2回押し出したじゃないですか。もうちょっとで勝てたと思ったんで、もう一度やってみようかなと思って。
――最終的には2Rの途中でパウンド連打され、レフェリーストップ負けでしたが。
海鵬 自分の作戦ミスだったかもしれないですね。1Rの最初からガンガン攻めてくるだろうから、かわしてかわして、そこから攻めていこうって考えていたんですけど、相手が全く攻めてこなかったんですよ。1分ぐらいでしたか、相手の周りをこっちが回って、それでしびれを切らして攻めていったんで。最初から攻めてれば勝てたかもしれないですけどね。後半に2回立て続けに押し出したので。
――どんな作戦でくると考えていたんですか?
海鵬 キックはあんまり打ってこないだろうと。上体が大きくて、腋が閉まらないからストレートも来ないだろうし、パンチもうまい方じゃないだろうと思ってたんですけど。
――ご自身としては不完全燃焼ですか?
海鵬 そうですね。あとはスタミナ切れですね。1Rで使い果たした感じだったので。
――見ていた感じですと、1R前半は海鵬選手もどうしたんだろうというか、お手上げ状態のようにも見えました。予想外のことが起きたので、相当戸惑っていたんですね。息があがった感じはしませんでしたか?
海鵬 呼吸が止まっちゃうから、止まらないようにしなきゃだめだよってトレーナーの方には言われてたんですけど、忘れてたかもしれないですね。
――相撲は呼吸を止めるんですか?
海鵬 止めますね。
――そのへんは全然違いますね。
海鵬 そうですね。呼吸しなさいってよく言われれてたんですけどね。自分は相手の周りを動いてたんだけど、攻めてこないからどうしたらいいか、わからなくなっちゃって。これじゃだめだなと思って、自分から攻めていったんですけど。
――動かない大きな相手に攻めかかっていくのは、スタミナをロスしそうですね。アンブリッツ選手は大型でしたから。
海鵬 それからわかったことは、試合をしていて休む所がないじゃないですか?
――どういう意味ですか?
海鵬 ロープがないし、力が入れっ放しになるので、疲れますよね。
――……なるほど。ロープやコーナーがあれば組み合ったまま、もたれることもできますからね。それで息つくこともできるわけで。では、相手の打撃は食らっても平気でしたか?
海鵬 去年の試合ではまあ、平気だったですけど、後頭部は痛かったです。最後のパウンドで後頭部にも入ったんだと思います。
――テイクダウンを取られたのが失敗でしたか?
海鵬 何でこっちが転んじゃったんでしょうね。でももう2R目は力入らなかったですね、スタミナ切れで。勝つためには1ラウンドの中で3回、闘技場の外に出さなきゃならないじゃないですか。もう3回は出せないな、と思ってしまったんです。
――1Rで2度出したら2Rであと1回出せばいいわけじゃなく、また2Rで3回出さなきゃいけないですからね。でも相手は道衣も着てるし、帯もしているので掴む所はあるのに、倒したり押し出し出したりするのは難しいですか?
海鵬 1R目の最後は帯取ったんですけど、倒れなかったですね。あと30秒と言われて2回押し出して、それで勝ちたくてこっちがあせったんですよね。
――では、もし1Rが5分だったら?(笑)
海鵬 あのまま行ったら勝てたと思います。
――では、もし時間無制限勝負だったら、楽に3回押し出せていたと?
海鵬 楽勝だとは言わないですけどね。
――2Rで上になられて、下から返せないものかとは思いましたが。
海鵬 15秒たてばブレイクになるんだから、15秒我慢しておけばいいんだと思っていたんです。
――ではブレイクとなって、立って再開されることを期待していたんだと。
海鵬 そうですね。でも倒されたのが2回目だったし。こっちもハアハアしていたんで、止めてくれたんじゃないですかね。
――我慢できるからジッとして15秒間ブレイクを待っているのか、反撃の手立てがないから殴られ続けているのか。レフェリーがどう見たのかはわかりませんが、下になった状態で抵抗せず殴られ続けていたら、レフェリーが試合を止めるのも、やむをえません。レフェリーの判断には納得していますか?
海鵬 そうですね。あれ以上やっても、何も出来なかったから。もう力が出なかったから、止めてもらって良かったかなと。
星風はあれやっちゃダメでしょう。恥ずかしいですよね。
――道衣を着ての初試合だったわけですが、それは良いほうに作用しましたか。
海鵬 自分としては、掴めるから良かった。有利だったと思います。パンチや蹴りに対しては、1発か2発殴られるの我慢して、中に入れば…って思っていたので。まず打ち合うことはないですから。打ち合ったって勝てないので。
――そもそも打ち合う気はなかったと。
海鵬 ないですね。だって、当たらないですもん!
――いや、打撃を練習すると、それを出したくなる選手もいるんですよ。海鵬選手は当てられるのを覚悟して組みついていったと。
海鵬 2、3発は受ける気で。でもアゴを引いておけば、まともに入らないですよ。
――では1R中は、打撃でのダメージはなかったんですね。スタミナ切れの話をされていましたが、もう少しもつと思っていたと?
海鵬 走り込みとかやっていたので、もうちょっと出来るかなと思ってたんですけど。以外に1Rで力、使い果たしちゃったんですよね。初めてのことだったんで、緊張もしていたし。どこで力を入れて、どこで抜いていいかもわからなかった。ずっと力入れっ放しだった。それもあって、たぶん疲れちゃったんですね。
――国技館の雰囲気は楽しめましたか?
海鵬 そうですね。雰囲気は楽しめましたけど。
――天井を見上げたりしましたか?
海鵬 しましたね、久しぶりに。いいですよね……思い出しますよ、声援受けたらね。
――有明コロシアム大会で対戦するガブリエル選手の試合映像は見ましたか?
海鵬 見てないですね。バレーボールをやってるのは見ましたけど。
――ヒップホップ調で踊ってる映像も巌流島HPで見られますよ。でも参考にならないですね。
海鵬 「(闘っている)映像はない」って言われました。身体能力は相当ありますよね。すごいジャンプ力ですもんね。
――どのくらい格闘技の練習をしているのかは、未知数です。
海鵬 前回大会の試合で星風がもめた時、一番最初にボンギンゴシ・マドンセラのセコンドで出てきたんでしょ?
――南アフリカ側のセコンドの中に日本語が喋れて、猛烈に元気がいい人がいましたよね。勢いは目立っていました。「星風とやらせろ」って言っているという話も入ってきましたが、代わりに標的にされちゃったんでしょうか? でも、代わりになる気はないでしょう?
海鵬 もちろんないですね。
――3.25TDC大会は見ましたか?
海鵬 会場に行きましたよ。
――星風選手の試合はどうでした?
海鵬 あれ、ダメでしょう。あれやっちゃダメでしょう。恥ずかしいですよね。反則ですもんね、止められてるのに殴りかかったりとか。
――明確に反則です。
海鵬 色々そこまでにいきさつはあるのかもしれないけれど、それにしたってフェアプレーじゃないですもんね。
――場外に落ちてるのに上から殴ってましたからね。あのヤンチャ坊主そのものの姿にはビックリしました。でも格闘技をやっている選手の中には、あのぐらい血の気の多い選手もいるのでは?
海鵬 そうですか? モンゴルの子たちは、ちょっとそういうのあるのかもしれないですね。朝潮龍にしてもね……。
――相撲の世界ではヤンチャな子は普通、押さえつけられるんですか?
海鵬 やめろって言われますよね。
――気が荒い人でも、それを活かせるのが格闘技の世界だとも、言われがちですが。では、アフリカ勢のセコンドが怒るのも無理はないと。その怒りを海鵬選手にぶつけられるかもしれないじゃないですか。
海鵬 それは大丈夫です。大丈夫でしょ。
――まだ対戦相手と会ったことはないんですよね。海鵬選手は笑顔が素晴らしいから(笑)、一度挨拶できれば試合前に健闘を誓って、握手してもらえますよね。
海鵬 でも、同じだと思われてるかもしれないんですね。
――相撲軍団!? ……そう思われてたら大変ですが(笑)。
対戦相手のデータはないが一所懸命やるしかない。しぶとく行くところを見てほしい
初参戦となった2015年の両国大会では、相撲流の押し出し殺法で相手を追いつめた海鵬。再度、巌流島に挑もうと7.31有明大会への出場を決めた
海鵬 相手は背が高い。193センチあるんですよね。……こっちは175センチなので届かないですよ。
――リーチがあるのは間違いないけれど、何が得意なのかはわからない。タレント業をやっているんですけど、まだ謎が多いんです……。鳥人的ジャンプで前蹴りが飛んできたり、バレーのスパイクみたいにジャンプして頭をはたいたり!? 寝技がないから、伸び伸び跳んでくるかもしれないですね。
海鵬 なんか相手は巌流島で覚醒しちゃいそうですね(笑)。
――『相撲の張り手VSバレーのアタック』が実現したら、それこそ漫画の世界ですよ! 一体どうなることやら! でも、がっぷり組み合う姿は想像できないなあ。相撲の態勢になったら、そりゃあ海鵬選手が圧倒するでしょうけど。
海鵬 どうですかねえ。とにかく相手の資料がないんだから、わからない!
――スピードはありそうだから、簡単には捕まえられないかもしれないですね。星風選手の兄、バル・ハーン選手と対戦した、セネガル相撲のグリス・ブドゥ2選手はどうでした?
海鵬 星風のお兄さんが「力、強い」って言ってましたよね。投げられたの初めてかなって。でもアフリカ勢って気持ちが切れるのが早い。すぐ、やる気なくなりますよね。思ったほどではないなと思いました。
――日本の相撲のルールでやったら通じないと。
海鵬 通じないでしょうね。
――海鵬選手が対戦したら?
海鵬 切り返しで転ばせられると思うんですよね。
――巌流島ルールでも勝てそうだと。
海鵬 打撃を我慢して中に入りさえすれば、と思いましたけどね。
――ところで星風選手とは話したりするんですか?
海鵬 全然ないですね。
――会ったら怒ってやりたいぐらいですか。
海鵬 う~ん、かかわりたくないですけどね。
――星風選手と巌流島で対戦するのは?
海鵬 いやです。あんな反則、されたくないでしょ。無茶苦茶だもん。相撲の時は先輩とかいるじゃないですか。今はいないから何でもできるんじゃないですか、自由に。怒る人もいないだろうし。
――相撲社会で教育も受けていますが、スイッチが入っちゃうと止まらないのかもしれません。大会直後の動画のインタビューでは「カッとなって見境がつかなくなって。でもそれは勝ちたい一心からでした、すいません」って、星風選手は話していましたが、有明コロシアム大会でも何かと注目されるでしょうね。
――両国ではアンブリッツ選手と体重差がかなりありましたが、今度は相手は93キロということです。
海鵬 自分は今、体重は100キロぐらいですね。わざと増量しました。去年は相手が130キロで、自分が99キロぐらいだった。30キロぐらい差があったので、その分でもスタミナがロスしましたから。押すのには体力、体重がいりますから。
――両国では声援を送っていた子供達の声は聞こえました?
海鵬 やっている時は聞こえないですね。セコンドの声も、一所懸命動いてる時は聞こえないですね。見合っている時は聞こえますけど。相撲の時は、聞こえる時と聞こえない時がありましたけど、巌流島では聞こえなかった。最初なので緊張もしていたんでしょうね。
――両国で試合を見ていた者としては、勝敗を超えて、あの日の海鵬選手からはとっても伝わってくるものがありました。何と言ったらいいのか難しいけれど、“押し出し”を見て、言葉や文字を超えた“美しさ”を感じたんです。あれが海鵬さん自身の相撲に懸けた魂、命そのものだったのかもしれないですね。押し出しでポイントを取るという行為が、こんなに感動的なものだったのか!と、巌流島の闘技場で改めて気づかせてくれたのも海鵬選手でした。
――最後に、有明コロシアムに応援に来てくれる来場者にメッセージを。
海鵬 一所懸命やるしかない。すぐには勝負は決まらないと思うので、しぶとくしぶとく行くところを見てほしいです。
――相撲を代表するとか、相撲を背負って、という気持ちは。
海鵬 それはあまり意識していないですね。
――でも相撲をやってきた誇りはありますよね。
海鵬 もちろんありますよ。自分は相撲の攻め方しか出来ないですから。
――そういう選手が出て来てくれた方が面白いんですよ。みんなが同じ試合の仕方をしても面白くない。防御はすべきですけど、あとは自分の得意な技術で対峙したらいい。相撲出身の海鵬選手が、相撲取りとしてこのルールの中で勝っていくことに、価値があるんです。自分本来の競技に特化した攻め方をすると、巌流島では判定評価も上がるんですよ。
海鵬 では……バレーボール出身の場合はどうなるんですかね?
――……それは僕に聞かれても……(絶句)。
海鵬 とにかく僕は、自分にできることを精一杯やるだけです。
■7.31巌流島・有明大会の対戦カード、チケット情報はこちら→ http://ganryujima.jp/?grjm_events=way-of-the-samurai-%e5%85%ac%e9%96%8b%e6%a4%9c%e8%a8%bc-final