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小見川、勝利! 菊野、苦戦を予想! 菊野選手が戦った「打撃格闘技の宿命」

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お題………大反響の5・6 巌流島・舞浜大会を振り返る!

 

文◎山田英司(『BUDO-RA BOOKS』編集長)

文◎山田英司(『BUDO-RA BOOKS』編集長)

 

今回の大会のポイントは菊野選手と小見川選手の無差別試合。その試合に触れないわけにはいかない。

通常、ボクシングでもキックでも、顔面ありの打撃格闘技は、厳密な体重制を敷いている。スポーツの根本はフェアであり、体重の重たい人間は打撃力も増し、有利になるため、同体重で戦わなければフェアではない、という考えからだ。

この考えはスポーツとしては極めて妥当である。しかし、日本発祥の武術は相撲、柔道、空手、剣道など、無差別を基本とする競技体系を取ることが多い。言うまでもなく、武術的な発想がその根幹にあるからだ。しかし、それらの武術は、何れも顔面への正拳攻撃などの本格的な打撃が認められているわけではない。

巌流島が、スポーツではなく、武術志向であるため、無差別を志向する趣旨は分かる。しかし、顔面への正拳攻撃も認める無差別の試合は、ある意味、未知の分野であり、それは極めて危険を伴うルール解放である。

主催者がその危険性を認識していなかったとは思わないが、何れにしても危険な賭けであったと思う。結果として、菊野選手のスネの怪我でメイン試合は終了したが、その程度のアクシデントで済んだのは、むしろ幸いであったかもしれない。

小見川選手の相手との体重差は42キロ。菊野選手の相手との体重差は57キロ。どちらも不利な条件での闘いには違いないが、不利の内容が全く異なる。私は試合前に、小見川選手は勝利しても、菊野選手の勝利はまずありえないと予想した。それほど両者のハンデの内容には差がある。それは巌流島ルールと打撃格闘技の宿命によるものだ。

道着着用で、倒して寝技もあり、場外に押し出しても良し。環境の利用をポイント化した点が巌流島ルールの特性であるが、このルールでは柔道家は強い。とくに普段道着を着用せずに戦うキックボクサーには、立っても寝ても相手の動きを封じることができる。打撃格闘家は少しでも身体の自由を拘束されたり、自己のバランスを崩すと、強い打撃を放てない。小見川選手が片手でも楠選手の道着に触れれば、相手をコントロールできる。ましてや、寝技に持ち込めばさらに容易だ。打撃に対処できれば、小見川選手は巌流島ルールの全局面で相手をコントロールすることが可能だったのだ。

むろん、体重差のある相手をコントロールするのは生易しくはないが、相手は体重があっても、これらの攻撃への耐性のないキックボクサーだっただけに、時間をかければ小見川選手に必ず流れは来ると読んだ。

試合はほぼ予想通りの展開であったが、まさか最後のフィニッシュを、予告通り、巴投げで決めるとは思わなかった。小見川選手が、いかに体重差のある相手をコントロールしきっていたか、という一つの証だったろう。

では、菊野選手はどう相手を自分の得意な土俵に引き込み、相手の良さを消せるか? 実は一つも無いのである。打撃格闘技とは、原則的に相手と接触していないため、直接的に相手をコントロールできない。むろん間合いを圧迫したり、フェイントをかけたりして間接的なコントロールは可能だが、直接的なコントロールはできない。さらに地面や、土俵外などの環境の利用も打撃格闘技はしにくい。相手と肉体接触するまでが、打撃格闘技の範疇だからだ。

こうした打撃格闘技の特性を背景に持ちつつ、菊野選手はさらに体重ハンデを背負った。相手が大きいということは、打撃格闘家はそれだけで自分がコントロールされるに等しいハンデを持つのだが、それが第三者には極めて見えにくい。

まず誰でも思いつくのは、体重がある人間はそれだけで打撃力が増す、という事実だ。衝撃力は質量が2倍になるとそれに比例して2倍になる。相打ちになったら、一発で小さい人間が吹っ飛ぶことになる。

しかし、大きな人間は当然リーチもある。小さい人間はいつもより遠くから飛び込まねばならないし、ステップバックも大きくしなければならない。

また大きな人間は身長もあり、狙う場所もいつもよりずっと高い。これは打つ人間からしたら目標がさらに遠く感じるものだ。菊野選手は相手が大きいだけでいつもと違う動きを強いられる。すなわち最初から相手にコントロールされる条件下で戦わねばならなかったのだ。

菊野選手は、背の高い相手に、こんな角度で上段突きを放たねばならなかった。

菊野選手は、背の高い相手に、こんな角度で上段突きを放たねばならなかった。

 

さらに見逃せないのが大きな人間のブロック力。小さい人間に蹴りやパンチを受けられてもどうということはないが、大きな人間にブロックされると大きなダメージを負う。体重が2倍になったら、実はブロックの衝撃も2倍になるのだ。

これは実際に組手やスパーをした経験があれば、誰でも経験する事だと思うが、大きな人間に蹴りを膝ブロックされたりすると、びっくりするくらい痛い。だから大きな人間に小さい人間が強い打撃を放とうと思ったら、それだけで勇気がいる。しかもいつもより遠い間合いから、高い角度に放たなければならない。これは打撃格闘家からしたら致命的なハンデである。いつもより自分の拳足が相手に届くのに時間がかかるということは、相手のカウンターに身をさらす時間も長くなるということだ。

その危険の中に身をさらし、菊野選手は勇気ある攻めを見せていた。身を低くしての中段突き。そして一転しての上段突き。さらに蹴り。しかし、その膝ブロックが命取りになった。ブロック一発でスネの骨が飛び出るほどの強い打撃を菊野選手は放っていた。菊野選手は誰もが抱く大きな人間を責める恐怖心を克服して、見事な攻めを見せていたのである。しかし、菊野選手の肉体はその壁を越えられなかった。

小良く大を制す、というテーマは打撃格闘技にとって、想像以上に困難で重たいテーマである。今回の巌流島は、良くも悪くもそれを浮き彫りにした大会だったのではないか。

 

56舞浜アンフィシアター大会のレポートはコチラ
『巌流島 WAY OF THE SAMURAI 2017 in MAIHAMA