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話題の新刊書『押忍とは何か?』の著者が、巌流島・大学武術駅伝を語る

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お題………「大反響!1・3巌流島・舞浜大会を振り返る!」

 

文◎大森敏範(日大キックボクシング部OB)

文◎大森敏範(日大キックボクシング部OB)

 

私は日本大学キックボクシング部の出身であり、全日本学生キックボクシング連盟(以下、学生キック)では長らく指導者委員長を、K-1では93年の発足から11年まで公認審判員、公認審議員を務めてきました。また、これまで伝統派空手、フルコン空手、少林寺拳法、日本拳法などさまざまな大学武道系クラブ関係者と交流を重ねてきました。今回は、1・3巌流島で行われた「大学対抗武術駅伝」について私見を述べたいと思います。

80年代終盤、後楽園ホールで石井館長から谷川さんを紹介され、早や30年近い年月が過ぎようとしています。その谷川さんから、「大学対抗武術駅伝」の話を聞いたのは、去年の夏のことでした。「箱根駅伝」に合わせて「大学対抗武術駅伝」をやりたい。大変興味深い話でした。

現代の日本は、少子化が進み、大学数が増加し、選ばなければ誰もがどこかの大学に入ることができる「大学全入時代」を迎え、日本の大学はいま生き残りを懸け熾烈な競争を繰り広げています。大学の知名度アップは各大学にとって重要な課題であり、大学のブランドイメージを高めることに直結するのが大学スポーツの存在であると言われています。その数ある大学スポーツのなかで、現在、(関東の)大学がもっとも多くの予算を注ぎ込んでいるのが「駅伝」です。

往路復路で合計約16時間の地上波中継、テロップには大学名が出続け、カメラは大学名が入ったユニホーム姿の選手を追いかけ、アナウンサーが大学名を連呼する「箱根駅伝」は、大学願書締め切り前という絶妙なタイミングで開催されます。受験志願者数の増加は大学の経営をも左右するのです。日本人が一年のうち最もテレビを見る、お正月に行われる「箱根駅伝」。今年も驚異的な視聴率をたたき出しています。大学PRの費用対効果は計り知れません。

「大学武術駅伝」は当初はCSで放送する予定ですが、好評なら将来的には地上波放送の可能性も出てくるという話で、「箱根駅伝」の放送を見た後に、「大学武術駅伝」が放送されることになれば、大学をも巻き込んだ一大ムーブメントになる可能性を秘めています。武道・武術・格闘技に打ち込んでいる学生にとっても千載一遇のチャンス到来です。まずは、大会を開催することが先決。日大の後輩たちに参加を打診したところ、「出たいです。挑戦させてください!」と力強く応えてくれた。なんだかんだ理由をつけて参加を渋る学生が多いなか、気概を持った彼らを私は誇りに思います。

クラブの創設者である山崎照朝先輩(第1回極真全日本王者)からも「若いときの経験は貴重だ。手助けしてあげなさい」とのお言葉を頂戴し、日大キック部の参戦が決まりました。指導者の力不足から低迷が続く(すべては、後継者を育てられなかった私の不徳の致すところです)「学生キック」、いまやその存在さえ世間から忘れ去られようとしています。「大学武術駅伝」への参戦理由のひとつに、その学生キックの存在アピールに少しでも繋がればとの思いもありました。

私は「大学対抗武術駅伝」開催にあたり、かつてのK-1甲子園のようになって欲しくありませんでした。出場する高校生が、学校で練習するわけではなく、ジムや道場に通っているのに、その日だけ「高校名」で出場させる。あれでは、名ばかりの甲子園だと言われても文句ひとつ言えないでしょう。このやり方だと学校関係者、在校生やOBの応援、賛同を得られないのは自明です。選手たちは、学校の代表でなければならない。ましてや、セコンドがジムや道場の名前が入ったジャージを着ていようものなら論外でしょう。試合場の周りは大学名が入ったジャージ、ウインドブレイカ―を着た学生がごった返し、ラウンドガールはもちろん女子学生が務め、客席には現役部員、OB、応援団やチアリーディングが陣取る。そんな光景が学生スポーツではないでしょうか。

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試合経過については再三語られているので、今回は割愛させていただきます。審判団が早めのストップを心掛けてくれたおかげで、怪我もなく無事に終わりホッとしました。また、試合前の立礼、「正面に礼!」「お互いに礼!」の練習を事前にやった甲斐もあり、すべての学生が頭をちょこんと下げただけの「低頭礼」や、中途半端な「十字礼」でなく、腰から上体を折り曲げ、一旦静止し、ゆっくり元の位置に戻す「屈体礼」がきちんとできていたことは、体育会系の学生らしく好印象でありました。

当初は、8大学から3選手が出て、準々決勝、準決勝、決勝と、それぞれ1試合ずつ戦い、“襷(タスキ)”を繋いでいく、これぞ「大学武術駅伝」というカタチを予定していましたが、予定人数が集まらずに試合形式の変更を余儀なくされました。

これだけ総合格闘技が一般に認知されている今日、なぜ、大学に総合格闘技部やブラジリアン柔術部がないのだろうか。大正期から昭和期にかけて、空手、少林寺拳法、日本拳法は大学のクラブを中心に普及してきた歴史があります。そして、各大学のOBが中心になり、全国に道場(道院)ができたのです。それに対して、総合格闘技やブラジリアン柔術は、平成期に入ってから、ジムや道場を中心に普及していった歴史があります。強くなりたい学生は、ジムや道場に通うことになり、大学への普及までには至らなかったと考えられます。

「大学対抗武術駅伝」の課題としては、ふたつあげられます。ひとつは今回のようなプロ興行参戦の壁。そして、もうひとつが他競技(異種格闘技)参戦の壁です。競技団体それぞれの考え方により、参戦の壁の高さは異なります。もっともオープンなのはレスリングで、大会にプロ格闘技選手が参加することも、反対に、プロ格闘技興行にレスラーが参加することも認められています。

ボクシングや相撲のように、プロ・アマともに協会(連盟)が、文科省管轄の国内統括組織である場合は、厳密なプロアマ規定があり、他競技への参加も認められません。柔道はサンボや空道などアマチュア大会の出場を禁じる規定はありませんが、強化選手だったら許可されないと推測されます。当然、プロ興行への参加は認められていません。

日本拳法は2012年に、知名度向上のため、プロ格闘技への選手派遣を連盟がバックアップする姿勢を示したので、プロ興行参戦は問題ないと考えられます。キックボクシングはプロから始まった格闘技であり、学生キックは、50年近い歴史を有する日本最古のアマチュアキックボクシング組織ですが、上部団体としてのアマチュア国内統括組織は存在しません。学生キックは発足当初から、プロ団体である全日本キックボクシング系プロモーションの協力を仰ぎながら活動してきた歴史があります。

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日本に数多あるプロキックボクシング組織に国内統括組織やコミッションはなく、それぞれの団体で独自のライセンスを発行しています。興行の前半がアマチュア、後半がプロという場合も多く、試合出場費を徴収するか、ファイトマネーを支払うかが、アマとプロの差になっているのが現状です。国内統括組織が存在しないということは、プロアマ規定も存在しないということです。大学キックの部員では、部に在籍したまま、プロのリングに上がる者もいます。プロアマ規定はないが、アマ側の自主規制で、入学後に一度でもプロのリングに上がった者は、学生大会に出場できない取り決めをつくっています。

もし、異種格闘技戦の開催に各格闘技団体が難色を示すならば、「大学格闘技の祭典」の開催はいかがだろうか? かつての梶原一騎追悼興行「格闘技の祭典」の学生版を開催するのです。空手は空手、日本拳法は日本拳法、少林寺拳法は少林寺拳法、キックはキックとそれぞれの競技ルールで戦う。もちろん審判はそれぞれの競技の公認審判が行うのです。つまり、さまざまな競技が一堂に会し、それぞれの公式競技を行う「大学対抗戦」です。勝ち点をポイント制にしてトータルポイントで順位を決めるのです。空手から日本拳法に襷(たすき)を繋ぎ、日本拳法からキックに襷(たすき)を繋ぐ。68年に生まれた日大キックボクシング部は、かつて足蹴(そくしゅう)拳闘部と名乗っていた時代があり、71年発足の専大キック部の正式名称は、いまでも東洋伝拳法部である。これも、「大学武術駅伝」と言えるでしょう。

「巌流島」本戦のルールをファンや格闘家、有識者がオープンな議論を尽くし、構築・検証していったように、「大学武術駅伝」も大学生の意見も聞きながら、問題点、改善点を出し合って作っていってはどうだろうか。また、大会を盛り上げていくためには大学側の協力が必要不可欠であります。大学関係者、競技連盟、指導者、OB会と理解を深めていくことが重要になります。これを機に学生たちが他大学、他競技の選手と交流し、お互い理解し、尊敬し合うことができれば何よりの喜びです。大舞台での他流試合。この経験は学生たちの将来に必ず活かされると信じています。

■押忍とは何か? (大森敏範・著)

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