先入観と偏見を捨てて武道エンターテインメントの醍醐味を味わいつくせ!
今週のお題………「2016年 私が選ぶ巌流島ベストバウト」
流行語大賞が広島カープ旋風の「神ってる」と発表されて、マット界に絞れば本年もぱっとしない、あるいは世間大衆からかけ離れて、ガラパゴス化している印象をぬぐえない一年だったと考えさせられた。なにしろUFCブランドが邦貨約4000億円で売却された2016年である。しかし、国内の市場は冷え切ったままだ。あえて指摘すればプロレスリング・ノアの「時限爆弾」がマイナー志向・小宇宙の業界内では流行ったが、年末に向けては神取忍vs.ギャビ・ガルシア戦、ヴァンダレイ・シウバの欠場と、RIZIN時限爆弾がチクタク鳴り始めたと、週刊ファイトはタブーに踏み込んでいる。
救いというか希望の星なのが、3月、7月、10月の大会と回を重ねるごとに新たなファン層を堀り起こした巌流島と、ヒジ有りキックボクシングKNOCK OUTの旗揚げ戦ではなかろうか。UFCブランドに4000億円の価値があったのか否かはさておき、それだけ総合格闘技においては一党独裁的な地位にあったことを意味する。実際、北米ではMMAという呼称よりもUFCとして認識されているのが現実だ。そうなると、日本のプロモーションがどれだけがんばっても二軍リーグみたいなことになってしまう。
そこで「巌流島」の誕生である。日本発の格闘技であることを生かすには、どのようなルールが相応しいのか。さらには円形の闘技場や袴姿のレフェリー、リングガールは巫女といった視覚的プレゼンテーション含めて、「武道」の醍醐味をプロ・スポーツとして魅せることが落としどころになろう。他と違うことをやらないと世界地図における上位概念にはならないと、「打つ!蹴る!斬る!」のコンセプトを打ち出したKNOCK OUT然りである。「なにをもってして公平なのか」の議論はともかく、巌流島は相撲を生かせる競技にした出発点以下、カマキリ拳法まで再発掘させたのだから単純に面白い。大会名通りの「公開検証」シリーズを経て、新格闘技・巌流島が2016年に確立したことは称賛に価する。
ズバリ、ベストバウトは10・21『全アジア武術選手権大会2016 in TOKYO』のトーナメント決勝、菊野克紀vs.小見川道大に尽きる。柔道・小見川が鮮やかな巴投げで菊野をドライアイスの奈落の海となる場外に突き落とし転落させるも、沖縄拳法・菊野が三日月蹴りで勝負を決めるという、劇画の世界が実際に行われたのだから興奮しないほうがオカシイ。また、このカードは8人トーナメントの決勝であり、必ずしも主催者の狙い通りにガチンコ勝敗が進展する保証がなかった前提を加味するなら、いわゆる神風が吹いた神興行でもあった。武道が生かされているプロ格闘技の確立は、もっともっと多くの大衆の目に留まってほしいと願うばかりである。
お題がベストバウトである以上、反則になってしまうかもだが、もう一つ、7・31『WAY OF THE SAMURAI 公開検証 Final』の田村潔司vs. エルヴィス・モヨ戦の実験もまた、記憶に残る点では外せないと考える。2016年は「モハメド・アリvs.アントニオ猪木40周年」の節目でもあった。いまだファンタジーで語る「アリ猪木」考察が圧倒的な主流であるが、筆者は一貫して異を唱えてきている。詳細は週刊ファイト購入を願うとして、やはり巌流島で行われた「特別ルール」カードは、ある意味ではつまらない試合になった。ただし、片時も目が離せない緊迫と戦慄を覚える。やはりこうなってしまう、という展開がガチンコの真実だった。また、プロレスの業界用語でダウン役なのに「落ちない」という隠語があるが、田村潔司の評価がむしろ高まったことも特筆すべきだろう。漢の中の漢であった。
巌流島と2016年を語る際に、英国のEU離脱、ドナルド・トランプ大統領の誕生と、世界的な保守化の潮流はマイナス要因かも知れない。新しい格闘技を認めようとしない頑固者が増えてしまっている。当ブロマガ欄のバックナンバーを読み返していただければ、筆者は繰り返し「踏み絵論」を記してきた。例えばロック音楽のBABYMETAL現象然り、「今年の一皿」に選ばれたタイ料理の野菜パクチー然り、タブーに踏み込む大人のファン向きジャーナル「週刊ファイト」にも当てはまるが、好き嫌いがあるのは仕方ないにせよ、偏見だけが先行する食わず嫌いはよくない。
2017年、マット界の初詣は巌流島から始まる。先入観を捨てて多くのファンが武道を生かした新格闘技・巌流島に魅せられることを願ってやまない。
●週刊ファイト12月8日号全日両国東京愚連隊永源遥ノア爆破長州天龍鷹の爪大賞巌流島
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