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カポエイラ先生が巌流島ADAUCHI 2017を観て、菊野さんにもカポエイラにも巌流島にも感動した話<後編>

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お題………大好評! 9・2巌流島ADAUCHIの総括と裏側

 

文◎須田竜太(NPO法人カポエィラ・テンポ理事長)

文◎須田竜太(NPO法人カポエィラ・テンポ理事長)

 

新宿の大久保に道場を持ち、カポエイラを日本で広めるために活動しているカポエィラ・テンポ(http://capoeira.or.jp)というグループの代表をやっている、須田竜太といいます。

前回、カポエイラの先生が敵(菊野克紀)に塩を送ったら敵の素晴らしさにやられちゃった話で、カポエイラについて、マーカス家について、そして菊野さんがカポエイラ対策でうちの道場に来た話を書きました。

今回は巌流島ADAUCHI 2017当日の話です。

カポエィリスタ(カポエイラ使い)が出場するんだから、当然カポエイラ式の応援をするでしょう!

と、いう事で舞浜に向かう前に道場に寄り、弓の様な楽器ビリンバウとタンバリンみたいな楽器パンデイロ2つを持っていきます。

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小3の長男と小1の次男と行ったのですが、長男は「え!?パパ、ビリンバウ持っていくの? なんで? 試合の時に弾くの? 恥ずかしいからやめてほしい」とぬかします。

「うるせー! カポエイラで闘う人の応援に行くんだからビリンバウで応援するに決まっているだろう。お前も頑張っている時に応援されなかったら嫌だろう」

と普通の人には理解できない理論で黙らせます。

パンデイロはもちろん子ども達が担当です。

ただ、果たして自分はどの立場で観に行くべきか!?

迷っていました。

マーカス兄弟の兄、ヴィニシアスの応援は何も問題ありません。

兄弟共に全然知り合いではないのですが、カポエィリスタ同士、当然全力で応援します。

問題は菊野克紀VSマーカス・レロ・アウレリオ。

カポエィリスタとしては当然レロの応援をしたいです。

が、菊野さんの事を好きになってしまっている自分は素直にレロを応援できません。

会場に着いてからもずっと考えていました。

SNSなどでは「どっちも応援しまーす」みたいに軽く書いていましたが、日々ずっと悩んでいました。

皆さんは俺一人が応援した所で関係ないと思うかも知れませんが、カポエイラはダンスもするしアクロバットもするし楽器は演奏するし歌は歌うし、そして応援もする格闘技です。

ホーダと言うカポエイラの集会。

カポエィリスタ達が集まり円を作り、楽器、歌、手拍子で盛り上げ応援し、力を与えられた2人が円の中心でジョーゴ(闘い、演舞)をします。

音楽が盛り上がらないホーダでは良いジョーゴができません。

逆に最高に盛り上げてくれれば、いつもは出せない技も出せます。

自分も練習ではできないけど盛り上がったホーダでなら出せるアクロバット技があります。

カポエィリスタは応援の力を信じるのです。これをアシェーとも言います。

マーカス一族のカポエイラ団体、「アシェー カポエイラ」のアシェーです。

父親のメストゥレ バハォンはアシェーの大切さを思って自分の団体にこの名前を付けたのでしょう。

アシェーは元々アフリカ由来の宗教から来た用語です。

カポエイラは遡れば神聖な物と結びついています。

近年その要素は表には見えませんが、見えない力を信じる人が多いです。

観客席にいる自分(と息子2人)がアシェーを送るかどうかで結果に影響する事もあると、結構本気で信じています。

そうこう考えている間にも試合はどんどん進み、ヴィニシアス対ミケーレ・ベルギネリの対戦です。

観客席が固唾を呑んで開始を見守る中、こっそりとビリンバウを構えます。

しかし入場の時に係の人は何も聞いてこなかったけど、こんな怪しい武器みたいな物、疑問に思わないのかな。

ああ、そうかきっと巌流島関係者はみんなカポエイラの事を調べ済みなんだ。

入場テーマ曲が流れます。

あ、親父のCDの曲じゃないんだ。

巌流島の入場用にレコーディングすればいいのに。

ビリンバウの音が入っていないじゃないか~。

じゃあ俺が弾くしかない! 届けこのアシェー! SRS席のど真ん中だし!

とばかりに入場曲が終わった瞬間にビリンバウを弾きます。

息子たちもしょうがなくパンデイロを叩きます。

まず親父のメストゥレ バハォンがビリンバウの存在に気付く。笑顔で。

そしてヴィニシアスも気づいて超笑顔で手を振ってくれる。

改めて彼が紹介される時も拍手に紛れてビリンバウを弾く。

これも聞こえてて喜んでくれている。バク宙パフォーマンスもいい感じ。

…ヴィニシアス余裕なんじゃないか?

…余裕でした。

ベルギネリはきっとカポエイラ対策を、前回のレロ戦の感じでやっていたのでしょうが、きっと予想を外されたんだと思います。

レロとヴィニシウスの総合でのファイトスタイルが違うという話は良く出ますが、そもそも同じ団体のカポエィリスタ同士でも結構スタイルは違う物です。

団体によってはまるで先生のコピーの様に生徒がみんな同じスタイルを持っている所もあります。

ですがカポエイラは奴隷達が自由を求めていた結果生まれた物。

基礎やルール、精神などと守らないといけない部分ももちろん他の格闘技と同じくたくさんありますが、それと同じぐらい「自分を出して良い」のです。

例えばレロがよくやる左右に動くステップであり構えである「ジンガ」。

カポエイラを習う時はまずは必ずコレから学ぶのですが、良いカポエィリスタのジンガは例えシルエットで見ただけでも「このジンガはあいつだ」とわかるぐらい、オリジナリティを持っています。

だから兄弟だからと言って、同じ対策でいったら全然違う事になるわけです。

ちなみにヴィニシアスの方が兄ですが、カポエイラ内での地位ではレロがコントゥラ メストゥレ(メストゥレの手前の帯)、ヴィニシウスがプロフェソール(その手前)です。

よりカポエイラの中での地位が高いレロの方がカポエイラを、カポエイラの技を背負っている意識があるのかな?

ああ、誰かヴィニシアスを追い詰めて本気のカポエイラの蹴りを出させてくれないだろうかと思いました。

とにかく余裕すぎた…。

勝った後、勝ち名乗りを受ける彼にビリンバウを弾いて勝利を称えます。

ヴィニシアスはこちらに手を振ってくれます。親父はサムズアップして感謝を示してくれます。

きっと本当に喜んでいてくれたはず。

俺が彼らの立場だったらコレは嬉しいんですよ。

息子たちは「楽器で応援したから勝ったの?」と聞いてきます。

「そうだよ、お前らも応援して貰えたら元気出るでしょ? 大事なんだよ!」

順調に巌流島をカポエイラ教育の場に使わせて貰えています。

それからロッキー川村選手に笑わせて貰いつつ、ついに菊野克紀選手対マーカス・レロ・アウレリオ選手の試合に。

レロ選手、体重増えすぎニュースには驚きました。

そんなに体重増やして大丈夫なのか、というか体重増えるカポエィリスタはアクロバット技の衝撃などでだいたい膝を怪我します。

それをすぐ思い出しました。

ただ、デブでも蹴りが超速いカポエィリスタはたくさんいるので、蹴りのスピードは問題ないだろうな。

菊野さん当たったら壊れてしまうな…。

入場の曲が流れます。ビリンバウを構えます。

まずはレロの入場です。彼の入場曲もカポエイラではなかった。

レロの表情はかなり固く感じました。

曲が終わった瞬間から息子たちと共に楽器で応援します。これを聞いてリラックスしてくれ!と思いながら。

…レロは全く反応しませんでした。

しかも兄貴はしたのに、今回のレロは入場の時のバク宙パフォーマンスをしません。

逆に菊野さんの入場の素晴らしさ。

厳かに、冷静に空手の型を披露します。

まさか入場パフォーマンスで菊野さんが持っていってしまうとは!

レロ、どうしてだ? 大丈夫か?

菊野さん、ごめんなさい。

この辺りから、菊野さんを応援できなくなっていました。

この2人の精神状態の差…。

体重差よりも精神状態の差の方が強いぞと。

そして菊野さんがうちにカポエイラを習いに来て蹴りを避けまくっていた時のあのイメージ…。

レロが危ない!

そこからはポルトガル語で声援を送っていました。

ですが2度の転落。

対する菊野さんは超冷静に試合を進めています。

蹴りが見えちゃっています。

最後はレロの蹴り足の着地の自爆で終わってしまいました。明らかに焦っていた。

手を付く後ろ回し蹴り(メイア ルーア)の蹴り足の着地の仕方がそもそもレロは特殊で、普通のカポエィリスタはやらない恐らくMMA仕様の蹴り方なんですが、これは蹴りが終わった瞬間に速攻で前に行ける利点はありますが同時に着地の瞬間に物凄く荷重がかかります。

いつもの彼だったらそれでも大丈夫なわけですが、今回は後でわかった怪我という原因プラス、この焦った精神状態がまずかったんだと思われます。

蹴りの最中に次の事を考えすぎて、その蹴り自体に集中できなかったというか…。

この勝負、レロが自爆したから勝負は着いていないという考え方をする人もいるでしょうが、レロをここまで焦らせて自爆させたのは菊野さんの精神力と技術だと自分は思います。

脚をおさえ悶絶した直後、なんとか立ち上がって菊野さんの手を上げ、彼を称えるレロ。

カポエイラのジョーゴでも、基本どんな形で終わってもお互い笑顔で握手します。

気持ちを即座に切り替え、素直に負けを認めるレロもやはり心が強い。カポエィリスタです。

負けた後のレロのこの行動を息子たちに誇らしげに説明します。

こういう男がカッコいいんだぞと。

その後の菊野さんのトークも息子たちに聞かせられて良かった。

巌流島は教育の場です。

ただこの切り替えが試合中にあれば…いや、菊野さんがソレをさせなかったのか。

カポエイラ対策を教えておいてなんですが完敗の気分です。

いずれ巌流島は対ヴィニシアス戦を用意してくれるでしょう。

…その時はどうしよう~~~~。

即座にその事ばかり考えていました。巌流島なら絶対やってくれる。

菊野さんがまたカポエイラ対策を請いに来たら…

いや、こんな素晴らしい漢の頼みを断れるはずがない。

なので、どうぞまた来て下さい。

その時は俺の骨折も治っているので思いっきり蹴りにいきます。

そしてまたきっと今度も試合ではヴィニシアスを応援するでしょう。

なぜなら菊野さん、あなたは心から強いから。そこは許して下さい。

そして閉会式。

負傷したレロ以外全員の記念撮影が始まる。

超笑顔のヴィニシアス兄貴。

そして客席にいる俺を手招きする。

俺の持っているビリンバウを貸してくれと言っているらしい。

そして集合写真のど真ん中でビリンバウを掲げて超目立つアピールをするヴィニシアス。

差し替え

面白いなこの人。

なんでもアリだな。

あ、さらにビリンバウを弾き始めた。

本当になんでもアリだ…。アウェーなのに。

まるで自分の弟が負けた事なんてなかったかの様に超ゴキゲンで振る舞うヴィニシアス。

終いには集合写真終了後、俺を闘技場に呼ぶ。

え?一緒にジョーゴしようって!?

いいの!!?? 大会運営側的に。

そしたら菊野さんが「是非やって下さい! 運営側も喜びますよ!」と。

でもすみません俺、脚折れてるので…あ! 菊野さんがジョーゴすればいいじゃないですか!!

さらにヴィニシウスも「いいぜ、やろうぜ!」と。

少し戸惑いながらも菊野さんは受けちゃう。

そして謎の空間が始まりました。

菊野さんがうちの道場に来た時に、「試合終わったらレロとカポエイラしちゃいましょうよ!」

とふざけて言っていたのが思い出されます。

俺が楽器演奏をする中で、弟レロを破った男と笑顔でカポエイラを楽しむ兄貴。

数分前に自分の弟の脚を壊した男とゴキゲンで楽しんでいる。

闘うカポエイラではなく、交流するカポエイラ。

この男半端ないです。

多くの人の目には、この光景がすごく温かく映った様です。

気持ちのよい漢達の身体を使った会話。

ああ~、これがカポエイラの良さなんだよなあ。

息子たちにも言い聞かせます。

巌流島は教育の場です。

ただ、同時にヴィニシアスみたいな奴が一番強いんじゃないかと、ちょっと怖くなりました。

先日のブロマガのインタビューに出ていた、レロの脚の怪我の原因のカポエイラの技。

自分の予想どおりだとしたら相当エグい技を出しているはずです。

試合前の弟にソレやっちゃうの!?ってやつです。

今後彼と巌流島で闘う人は飲み込まれないように注意して下さい。

そうしないとあっけなく終わると思います。過去の2人のように…。

この闘技場で楽器を弾いてて思った事。

今後マーカス兄弟が勝ったら30人ぐらいのカポエィリスタで闘技場を占拠して、みんなで歌って演奏して勝利パフォーマンスを手伝いたいなと思いました。

盛り上がりますよ。

ヴィニシウスには、次回来日の時は是非うちの道場に来て調整に使ってくれと伝えました。

日本では珍しいカポエイラの常設道場なので。

レロは結局最後まで出てこなかったので会えずに残念でした。

菊野さんにはこの素晴らしい巌流島と関わらせて頂いて感謝に堪えません。

実際に会場に行って、巌流島の素晴らしさを体感できて良かったです。これは現場に行かないと絶対わかりませんね。

あまりに興奮冷めやらず、1年ぶりに自分のブログを更新してしまうほどでした。

息子たちをここに連れて来られた事も本当に良かったです。

・応援の意味、大切さ
・菊野さんが見せてくれ語ってくれた勇気を持つ事
・レロが、ヴィニシアスが見せてくれた、最後は笑顔で握手の誰とも仲良くなれるカポエイラの良さ

がある程度伝わったっぽいです。

日本のカポエイラ界の発展のためにも、巌流島に対して自分がお役に立てる事はできるだけしたいと思いました。

菊野さんのようにカポエイラに敬意を持っていただけるのでしたら、カポエイラ対策にうちの門を叩くのはもちろん歓迎致します。

普通にカポエイラその物を習いたい人は常に募集中です!

 

9・2巌流島のレポートはコチラ⇒
『ADAUCHI 2017 in MAIHAMA』