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【1.3巌流島 大会レポート】“神の手”菊野がソウザに失神KOでリベンジ! 大学駅伝は、東京国際大学が優勝!

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入場式の前におこなわれた忍者ショーは、まるでラスベガスの一流ホテルで見ているような立派なショーで、各試合の間には、日本舞踊、中国武術演武、舞刀家の登場、松濤館空手の演武があったが、いずれも一級品のパフォーマンスで、この入場料でここまで見せるか!と驚かされる内容だった。

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ロビーでは新年の餅つきと餅のふるまい、鏡割りと日本酒のふるまいもあり、正月ムードは満点。鳥居の脇には巫女さんも立っていて、華やかだ。

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1万円の福袋を買った10名の男性と、客席から選ばれた1人の女性には、闘技場の上に厚いマットを敷いて、その上で小見川道大に巴投げで投げ飛ばしてもらえるという特典がプレゼントされ、投げられた11人は今年の開運を祈っていた。

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■大学対抗 武術駅伝

1回戦第1試合、学生キックの高橋京輔(日本大学)と、伝統空手の久保田竜(山梨学院大学)の攻防は、高橋がヒザ蹴りや袈裟固め(パウンドはルールで禁止)で押さえ込み、有利な展開に。久保田は左の突きで高橋の顔面を打ってみせ、最後まで反撃したが、判定は3-0だった。両者ともに積極的で、いい試合になった。

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1回戦第2試合、柔道の村田純也(東京国際大学)が、新日本プロレス・棚橋弘至の後輩にあたる学生プロレスの藤森歩(立命館大学)を、一瞬で破った。ほぼ棒立ち状態の藤森に、村田が飛びつき腕十字。わずかタイムは10秒。藤森は学生プロレスのチャンピオンベルトを巻いて登場していた。

リザーブファイトでは、学生キックの坂井克好(日本大学)が、学生プロレスの龍頭慧(立命館大学)と対戦。龍頭のタックルをかわした坂井がバックに回り、うつぶせ状態の龍頭の背後から鮮やかなチョークスリーパーを決めた。まるで坂井の方がプロレスラーのようだった。

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決勝戦は、東京国際大学の村田が、日本大学の高橋に勝利した。高橋の左ジャブをくぐって、タックルで持ち上げた村田は、横に叩きつける。高橋は下から村田の首に左腕をまわし、首をとったが、すぐに首は抜け、村田はマウントをとる。そこから反転し、下から高橋の左腕をとらえて腕十字。流れるような展開で、鮮やかに29秒で一本勝ち。初開催となった大学武術駅伝は、東京国際大学が制した。

栄光は誰のために。新春決戦は最後に大爆発した!!

■先鋒『地』 渡辺一久 vs チェ・ミンス

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1R、渡辺はバックドロップのように持ち上げて、ミンスを腰から叩きつけたり、左手を下につけて逆立ちにいきながら右足で相手の頭を蹴りに行くという、カポエイラのような動きも見せた。

初来日のミンスは、打撃だけではなくMMAの動きもできる選手。どちらも積極的に攻めて行くので、攻防は面白い。1R終盤、渡辺の右ストレートが入り、チェは尻もちをつく形で倒れ込んだが、渡辺は深追いせず、相手が立ってくるのを待った。

2R、闘技場ぎわで組み合いとなり、落とされまいと踏ん張った渡辺は左足首を痛めてしまう。転落したあと、ドクターチェックが入り、続行されたが、渡辺はしっかり立っていられない状況で闘い続けるしかなかった。

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2R終了後、渡辺は「大丈夫だから。歩けるから」と必死に続行を訴えたが、平直行審判長もドクターも続行不可能と判断。それでももがく渡辺をセコンドは背後から抱きかかえて押さえ、タオルが投入された。

■次鋒戦『水』 町田光 vs アディチャ・カトカデ

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変幻自在の構えをするキックボクサー町田は、巌流島初登場。“インド・レスリング”コシティの実力者を名乗るカトカデを、KOすることはできなかったが、内容では圧倒。判定勝ちを奪った。

1Rは序盤こそカトカデのペースで進んだものの、町田は押し出しによる転落でポイントを取り、組み合いになっても町田ががぶって押さえ込んだ。スタンドに戻ると、町田は居合いのポーズ。ジリジリと下がるカトカデ。終盤は町田が相手の道着の肩のあたりを掴んでヒザ蹴りを9連打した。

2Rは町田がローを多用。一度はうまくいなされて転落してしまったが、町田の右ヒザ蹴りからの右前蹴りで、カトカデは力なく転落。さらにヒザ蹴り連打を食らい、町田にしがみついたカトカデは、15秒ブレイクののち、右ミドル、左フックを食らい、両手で押されて転落した。このラウンドは町田が圧倒した。

3Rは、町田のヒザ蹴り連打がきいて、闘技場ぎわでガードポジションを取りかけたカトカデを、町田が少し持ち上げて、場外に転落させる。町田は巴投げで相手を転落させようと試みたが、これは距離が届かず、転落とはならなかった。

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同体転落となったのは、1Rで1回、2Rで3回、3Rで4回。町田が押し出そうとしても、そこはインド・レスリング選手とキック選手の差なのか、組むと簡単に町田の思い通りの転落になることは、なかなかなかった。

決定打が出ず、一本勝ちには至らなかったが、町田は健闘したと言えるだろう。

■中堅戦『火』 瀬戸信介 vs マーカス・レロ・アウレリオ

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前日のフォトセッションの会場で、ソウザと共に抜群の存在感を示していたのがレロだ。来日経験も重ね、もうすっかり日本に来てもリラックスしるようで、表情には余裕があった。強敵を前にして、瀬戸の方が固くなっているように感じた。

序盤、左ハイ、飛び蹴りを見せたレロが、カポエイラ独特の側転をみせて足を振り回し、左ハイにいく。それを頭で受け止め、両腕で相手の左足を抱え込んだ瀬戸だが、レロは自ら倒れて、右手で瀬戸の右足を抱え込み、グラウンドに持ち込もうとする。

15秒ルールでスタンドで再開されると、レロが右ロー、瀬戸は右前蹴り。このあとレロは戦法を蹴りからパンチに切り替え、左ストレート2発をヒットさせた。戸惑う瀬戸を押し出し、瀬戸は場外転落。

再開されると瀬戸が右ハイ、左前蹴りを放ったが、蹴り足をとられ、組みつかれてレロの左ヒザ蹴りをボディに食う。

そこから強引に倒された瀬戸は、右肩を下にして闘技場に押しつけられ、レロは左パンチを瀬戸の左顔面めがけて1発。そのあとは相手の上に乗ったレロが瀬戸の左手を右手で取り、瀬戸の左腕で抵抗できないように固定して、左パンチを瀬戸の顔面めがけて振り落とすこと9発。瀬戸は右手で顔面をカバーしようとしたものの、もはや反撃する手立てはなく、主審が試合をストップした。

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敗れた瀬戸は、戦前「ブルース・リーのような怪鳥音を発しながら闘う」と宣言していた。実際、試合が始まってみると、「アチョー!!」という強い声ではなく、柔らかい「ハー!!」というような声を出していた。

そのことを試合後にきくと、「ノドをゆるませるファルセットで発生すると、首も背中の筋肉もゆるむことがわかって、自分の調子が良くなることにきづいた」のだそうだ。ファルセットとは歌うとき、高い声を地声と裏声の間の柔らかい声で出す発声法なのだが、なかなかノドの力を抜くのが難しい。でも力を抜くことこそ、声楽の世界でも重要なのだと教えられている。

瀬戸は新たな挑戦として怪鳥音を発しながら闘ったが、急にパンチ主体の攻めに転じたアウレリオに、とっさに対応することができなかった。

■副将戦『風』 田村潔司 vs レオナルド・ブラマ

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この試合は寝技30秒(通常ルールは15秒)、絞め技、関節技も認められる特別ルールで行われた。

ブラマは、イタリアでジークンドー(截拳道)、カンフーを学んだ選手。闘技場に登場すると、右拳を左手で包み込み、礼をする、ジークンドーの作法を見せた。ジークンドーとは映画スターにもなったブルース・リーを始祖とし、詠春拳がもとになったとも言われる格闘技で、相手の攻撃をさえぎり、攻めて行くのが特徴のひとつ。

でも、試合を見る限り、ジークンドーの中でも特徴的なリードキック、リードパンチが出ない。これは構えた際、相手に近い方の手足で打撃にいった方が、逆の手足で大きく振りかぶって力強く当てていくより早く当たるので有利、とする考えのもと、効き足を相手に近づけて構え、効き足、効き腕で打撃にいくものなのだが、これも試合で目立たなかった。

試合後、そのあたりのことを聞くと、ブラマは「それが見たかったのかい? ジークンドーはその瞬間瞬間でなにをなすべきか、ベストの闘いをするという考えなんだ。だから相手に近い方の手足で打撃にいったら、組み技の得意なタムラにキャッチされてしまうと思い、それをしなかった。期待してくれた動きも何度か出せたと思うけど、勝つためにどうしたらいいか、柔軟に考えたんだ」。

2RにはブラマがパンチでKO勝ちできるかと思えるようなシーンもあったが、「もう1ラウンドあるので、スタミナを温存しようと思った」。つまりラッシュをかけず、確実な判定勝ちを狙いにいったのだ。

競技として見ると、ルールにのっとって闘っている以上、これも立派な戦術だということになるが、プロ興行を主催するプロモーター側から見ると、退屈な闘い方をする選手だ、ということになる。子供たちや、コアな格闘技オタク以外の一般ピープルに、闘いの面白さを単純に届けるためには、こういう闘い方をしてもらっては困るわけだ。リスクを恐れず、一本勝ちを狙えない選手、チャンスであるにもかかわらず一気にいけない選手は、なかなか人気が出ない。

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結果はブラマの3R判定勝ち。田村は大会前日、計量を終えるとフォトセッションの予定などをキャンセル。体調がよくないということだったが、判定が出たあと、田村は自分のコーナーに戻って座り込み、うつむいて固まってしまった。試合後のコメントブースにも姿を見せず、病院に行ったという。観客を魅せる闘いができなかった己自身を、プロレスラー田村は責めていたことだろう。

■大将戦『空』 菊野克紀 vs ケビン・ソウザ

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この日の大会の魅力は、最後に大爆発したといっていい。それまでのフラストレーションも、客席の不満も、終わってみれば、すべては菊野の“一撃”を際立たせるためにあったような気がしている。それほど見事な菊野の左ストレートだった。

試合前日、日蓮宗・池上本門寺に出向いた対抗戦の出場選手たち 。境内にある朗峰会館でフォトセッションに臨み、希望したソウザと、日本側選手5人が力道山の墓参に向かった。

そのとき圧倒的存在感を見せていたのがソウザだった。長身で静かなたたずまい。きりっと伸びた背。おだやかな声。ブラジルのファイターというとヤンチャな選手が多いイメージもあるが、ソウザは全く違っていた。

2015年3月、UFCファイトナイトのブラジル大会で菊野戦に臨んだときには、菊野を優れた選手と認識した上で熱心に研究し、闘いに挑んだという。その結果、KOで「勝つことができた」というのだ。

菊野とそんな話をしていると、菊野の口から「彼は巌流島向きの選手でしょうね。わざわざブラジルから来てくれるだけでもありがたい」という言葉が出てきた。礼節を重んじ、対戦相手に敬意を持ち、全身全霊を懸けて勝負に挑む姿は、まさに“武道”を掲げる巌流島にふさわしい。地球の裏側から来たヒーローであるようにも見えた。

でもソウザのことを話す菊野の表情を見ると、どこか不安げで、言葉に力がない。存在だけで圧倒的なオーラを放つソウザとは対照的で、菊野の姿が小さく見えた。歩く姿さえトボトボ歩いているように感じてしまう。

これであした勝てるのか!? 大会前日の存在感では、ソウザが菊野に圧勝していた。

でも大会当日、闘技場に立ち、試合開始を待つ菊野の姿は、前日とは一変。全く固くなっている様子がない。静かな緊張感を保ちながらも、決してアガらず、ビビッていないその姿。たたずまいが、まるで悟りの境地に達した仏像のようだ。

なぜたった一日で、こうも自分を変えられるのか。まずその精神力に圧倒された。

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試合は菊野が闘技場の中央のポジションに立ち、ソウザが時計回りと反対に外周の方を回っていく。

菊野は事前に「神の手で勝つ」と予告していたが、半身に構え、前に出す方の足を巧みに入れかえながら、相手に近い方の腕を前に出し、手のひらを相手に向けて、相手の打撃を防御しながら間合いを計っている。

菊野は自分の間合いで闘う術(すべ)を持っていて、その巧みさもあって巌流島で勝ち続けてきたが、UFCでは逆に長身のソウザに間合いを詰められ、完敗していた。自分の間合いで闘えないと、打撃戦では勝つのが難しい。

ところが目の前でおこっている攻防では、菊野が間合いを制したように見えた。リーチの長いソウザが、なぜおびえるかのように菊野の前で自分の立ち位置を見失ったのか。その理屈は菊野にくわしく解説してもらわないと、明確にはわからないが、間合いを制した時点で、この試合は菊野が有利になったといっていい。

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最初に打撃を出したのはソウザで、左ハイ。菊野はそれを両腕でブロック。菊野は左のインロー。再び左のインロー。次も左のインロー。右の前蹴りはステップバックでかわされたが、ソウザの強力な左ストレートをヘッドスリップでかわした菊野が、強い左ロングフックを打ち込む。この左フックは顔をかすめる程度だったが、続けてソウザの背後に放つかたちになった2発の右フックが首下、首に続けて当たる。2発目のパンチはソウザの上半身を大きく前方に傾かせた。

そして菊野が左のインロー。2人とも腕を動かしながら、間合いを探っている。菊野が間合いを詰めて放った左のインローに合わせて、ソウザの右ミドルが決まる。菊野はソウザの蹴り足を左腕で抱え込もうとしたが右フックを食らい、ソウザの体を離してステップバックした。

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そして試合はフィニッシュへ。間合いはソウザに詰められているように感じた。ソウザが強烈な左ハイ。それを右前腕を内側から添えて左前腕でブロックした菊野は、頭を下げて相手のパンチが当たらないようにしながら、左ストレート一閃。これが見事にソウザの右顔面をとらえ、ソウザは棒のようになって前のめりに倒れた。

失神したソウザにすぐに馬乗りになり、菊野は右、左、右の顔面パンチ速射砲。主審がすっとんできて2人の間に入り、試合をストップさせた。

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会場を埋めていた観客から、大きな歓声がワアーッと沸き起こる。歓喜の菊野。呼応する観衆。ソウザには申し訳ないが、なんというハッピーエンド! これほどの劇的勝利には、そうそうお目にかかれない。

しかもこれは単なる強豪同士のカードではない。菊野にとっては「ブラジルで敗れた、弱い自分を克服するためのリベンジ戦」であり、ソウザにとってはUFCをリリースされた自分の存在を必ず勝って立て直さなければならない、大事な大事な一戦だった。

陳腐な言葉に聞こえるかもしれないが、菊野の一撃による勝利には、本当に感動した。仕事で格闘技を見ている自分にとって、試合でここまで感情を動かされることは、そうあることではない。「弱い自分」を見事に「克服」した菊野は、取材記者である自分にとっても特別な存在になった。

菊野は試合前の煽りVTRの中で、「武士とかもそうだったんじゃないかなと思うんですよね。死なないように闘いにいったら、絶対に勝てないと思うんですよ。死んじゃうと思うんですよ。でも“死中に活あり”だと思うんですよね。結果的に生きる」と言っていたが、まさにその通りになった。フィニッシュは臆することなく、相手のふところに飛び込むようにして放った、沖縄拳法空手でいうところの夫婦手(めおとで)だった。左右両方の腕を一対とみなして、左腕で前に打撃を放つ時は背中を軸として右腕を引く。力の乗ったパンチは当たれば一撃必殺。まさに剛腕そのものだった。

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コメントブースで、ソウザは意気消沈して語った。「首の後ろに入ったパンチがきいていた。時差ボケがきつかった。前回の対戦では菊野がそれを経験したのだと思う」。

それを聞いて菊野は「もちろん時差ボケはありますよ。丸3日寝られなかったな、ブラジル行った時は。だけどでもまあ、それを言い訳にした時点でもう、ね、次の成長ができないので。それはあるとは思うんですけれど、僕もそれで負けたとは言いたくないですね」。

記者自身は何度も海外に行っているが、時差ボケがきつい時は体に鉛が入ったように重くなり、自分が自在に動けなくなる。ヒクソン・グレイシーは時差ボケを警戒し、試合のひと月ぐらいから日本に入って山ごもりし、体調を整えていた。

かつてK-1フランス大会があったとき、大会前日会見で日本人記者が眠そうな顔をしていると、ジェロム・レ・バンナが笑って「どうだい、時差ボケがつらいだろう? 僕らヨーロッパの選手は、いつもそんな体調で日本で闘っているんだよ。今日は存分にその思いを味わってくれ」と言っていたのを思い出す。

オリンピックやプロボクシングの世界戦でもない限り、どの競技でも海外選手は2、3日前に開催国に入るのが通例だろう。だから現状では、時差ボケを勝敗の言い訳にはできない。それを乗り越えないと開催国の選手には、なかなか勝てない事になってしまう。

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菊野は「(試合後の)渡辺選手が車椅子で来たり、負けたとかいう話を聞くと、ホント心はざわつきます。試合直前まではグダングダンですよ。試合直前に腹を決めるというか。それでいいと思っている。僕はビビリなんでね。ビビらないようにしようなんて無理なんですよ。それを受け入れて。でも闘う瞬間だけは集中するってことで臨めたんで。よかったかなと思います」。

ほっとして椅子に座りながら取材陣の質問に答える菊野。あまりに素晴らしい試合だったので、菊野が立ちあがって取材が終了するとき、報道陣から拍手が沸き起こった。こんなこともそうそうあることではない。

団体戦の結果は、3-2で世界選抜側の勝利。桜吹雪の舞う表彰式の舞台に日本勢は立つことができなかったが、正月早々、本当にいいものを見た。格闘技マニアにとっては“至福の時間”だっただろう。

(文/安西伸一)