【田村潔司インタビュー】体重差30kgでローキック、タックル禁止? 本人が「勝ち目がない」と語る、異種格闘技ルールで田村はどう闘う!?
7.31巌流島・有明コロシアム大会で、WBFボクシング王者との異種格闘技マッチに挑む田村潔司。しかし、この試合はローキック、タックル禁止という、田村にとって1976年の猪木アリ戦よりさらに過酷な特別ルールで行われることになりそうだ。しかも対戦相手のボクサーとの体重差はなんと30kg! 田村本人が「勝ち目がない」と語るこの異種格闘技戦は、いったいどうなる!?
————記者会見で「猪木アリ戦」のテレビ放送をオファー直前に観たと言っていましたが、実際に観ていたんですか?
田村 本当に観てましたよ。それから2〜3日経って、巌流島から“猪木アリ戦ルール”でのオファーが来ました。
————そのオファーをどう感じましたか? これは何か降りてきたという感覚?
田村 そうですね。偶然か、必然か。不思議な縁を感じたといいますか。
————約40年前に行われた猪木アリ戦ですが、今の田村さんから見てどう映りましたか?
田村 すごく見応えのある試合でしたね。格闘技経験者の視点で見てみると、間合いだとか、猪木さんのパンチに対する恐怖心だとかが、こちらにも伝わってきて、すごく興味深かったです。
————あの頃はまだMMAは存在していませんでした。
田村 “プレロスvsボクシング”という、まさに異種格闘技戦ですよね。なので、本当に怖かったと思いますよ。
————アリ側にもプロレスに対する恐怖心はあったと思いますか?
田村 はい、怖くて踏み込めないところがあったと思います。試合の数日前に猪木さんの公開練習を見たアリがビビったという逸話がありますけど、あれはネタでもなんでもなく本当にビビったんだと思いますよ。あの公開練習があったからこそ、アリも踏み込めなかったんでしょうね。
————闘う前から闘いが始まっているという意味では、武術的な緊張感もありましたよね。
田村 はい、はい。
————田村選手は今回、「猪木アリ戦」ルールをもとにした試合に挑むわけですが、そもそもあの猪木アリルールについてどう思いますか?
田村 というか、こんなオファーを受けるのは僕くらいしかいないでしょ!(笑)。他のプロレスラーは、こんなとんでもないオファーは受けないでしょうから。
————あ、やっぱりとんでもないオファーという感覚はあるんですね?
田村 ありますよ! 僕、これまでいろんな闘いをしてきて、きっと感覚が麻痺しちゃってると思うんですよね。ただ、僕もプロレスラーという肩書きがある以上、この試合は避けて通れないものだと思うんです。アントニオ猪木を体感したいという気持ちがありますし、流れというか、何か運命的なものを感じたのでオファーを受けました。
————田村選手にとって、アントニオ猪木という存在は大きいものですか?
田村 う〜ん。僕の世代にとっては祖父的なイメージで大きい存在ですよね。
————UWF自体、“猪木プロレス”がなければ生まれていなかったですよね?
田村 そうですね、UWFの源流というか。子供の頃にテレビで見ていた猪木さんは“闘いのあるプロレス”をやっていたんですよ。僕はアントニオ猪木派か、ジャイアント馬場派かでいうと、完全に猪木派だったので。その流れの中で今度はUWFが出てきてという流れがあって。
————猪木アリ戦は今見てもすごい勝負だった。あるいはプロレス的なショーだったなど、いまだに様々な批評や見立てがされます。そういう問題提起の渦中に飛び込んで行く感覚は、怖いとか面白そうとか、どんな感覚なんでしょうか?
田村 まず、試合に向けてまだルールが確定していない状態じゃないですか。……う〜ん、僕と対戦相手とどっちが怖いんですかねぇ。相手はルールが決まっていない状態で、総合格闘家との試合をイメージしているわけですよね。一方で僕は、がんじがらめの闘いを強いられることは分かっている。やっぱり僕のほうが怖いのかなぁ……。
————当時の猪木アリ戦ルールって、いまだにはっきりと分かっていないことが多くて曖昧なんですよね。格闘技が進化しきった今、それを忠実に再現するというのは難しいんですが、当時のルールをもとに現代版の“公平なルール”を実現しようというのが、今度の試合のテーマでもあります。
田村 うん、うん。
————その状況で、対戦相手のトレーナーのスティーブ・カラコダは、腰から下へのタックルとローキックの禁止を主張しています。これまでプロレスラーがボクサーを攻略するときには、まさにこのタックルとローキックを使ってきたわけですよね。この2つを禁止されたときに、プロレスラーである田村選手はどう闘うんでしょうか?
田村 う〜ん、まぁ、その2つがなくても闘えるイメージはあります。
————それでも攻略法がありますか! ボクサーである相手はボクシンググローブ、プロレスラーである田村選手は素手というルールが有力かと思いますが、そこに関してはどうですか?
田村 う〜ん、どうですかね? というか、僕が使える武器は1つか2つでいいんですよ。それ以外の武器は捨てます。
————その一つ二つをいま聞くことはできない?
田村 ダメダメ! それは言えません! なぜって僕にはそのワンチャンス、あるいはツーチャンスしかないんですから。
————どんな攻略法があるのか、ちょっとイメージできません。
田村 それを言ってしまったら、それこそ武器が一つもなくなってしまうので、そこは絶対に秘密です。企業秘密!
————早く知りたいなぁ、その企業秘密! あらためて聞きますが、この試合には総合格闘家として臨みますか? それともプロレスラーとして臨みますか?
田村 それはもう絶対にプロレスラーですよ。プロレスラーとして闘います!
————今回はそこにこだわりがあると。対戦相手はヘビー級で115kgくらいあるそうですが、体重差に関しては?
田村 30kgくらい差がありますよね。30kgは厳しいですよ……。
40年前に行われた猪木アリ戦ルールの内容を再確認し、自身の試合の展開をイメージする田村
————そのうえローキックとタックルが禁止になったら、ボクサーがかなり有利になります。
田村 う〜ん、まぁ、勝ち目はないですよ!
————は? 自分で言いますか! では、なぜそんな勝ち目のないルールを受けるんですか?
田村 まぁ、でも、当時の猪木さんが対面したであろう不安と恐怖心に比べれば、これくらい大丈夫だろうという感覚もあるんですよね。それほど未知の試合に挑む当時の猪木さんは大変だったと思います。
————なるほど。当時の状況も含めてですね。ただ、ローキックとタックルが禁止となると、競技的には今回のほうがよっぽど厳しくなるかとも思います。
田村 そこはそうですね。すごく厳しい闘いになると思いますよ。場外エスケープや寝技制限がどうなるかも重要なポイントになりますし。あとはロープがないので、コーナーやロープに詰めて攻めるという戦法は取れない。これも難しいところです。
————UWFインター時代に、ボクサーのマシュー・サード・モハメッドをチョークで下していますけど、あの試合と今回の試合ではまったく意味合いが違ってきますよね?
田村 今回は“公平なルール”をテーマに改めて実験をするわけで、まったく別物になります。
————楽しみに待っているファンに、この試合のここを見てほしいというのはありますか?
田村 正直に言うと、今回はファンのためにというのは一切ないです。
————珍しいですね! 今回は観客のことは意識しない?
田村 はい! 見ないでほしいくらい(笑)。
————心の非公開マッチ!(笑)。
田村 巌流島で試合をするというのは、ルールとの闘いでもあるんですよ。今回も異種格闘技戦で、お互いの間をとった公平なルールを目指してやるわけですよね? 相手はボクサーなので一番大きな武器はパンチ。そして今回はローキックもタックルも心配しなくていいわけで、あちらは対策が練れると思うんです。僕は武器を制限されていく中で、何を有効に活かせるかを考える闘いになります。
————プロレスラーとして闘うということになると、同業のプロレスラーたちへのメッセージが何かあるということですか?
田村 いや、それもないですね。これは闘う本人にしか分からないことなので。対ボクサーというところでは、気持ちが分かるのは、猪木さんや高田(延彦)さん、船木(誠勝)さんくらいだと思うんです。あるいは僕がパトリック・スミスとバーリトゥードをやったときの心境なんて、いくら説明しても他の人達には分からないわけであって。今回はファンや他のレスラーたちがどう思うかは関係ないことで、単純に自分がアントニオ猪木を体感できれば、それでいいんです。
————闘いを通して“アントニオ猪木を体感すること”がテーマですか。
田村 当日、猪木さんは見にきてくれますかね?
————見にきてくれたら嬉しいですね。
田村 あ、そういえば一つ言い忘れていたんですけど、僕いまケガをしているんです。
————前回の試合で折った頬ではなくてですか?
田村 はい。右手の両肘です。
————み、右手の両肘?? まったく意味がわかりません! もしかしたら頭を打った?(笑)
田村 いやいや(笑)。えーと、右腕は肘の先端で、左腕は前腕の側面です。実は昨日、家族と一緒にボーリングに行ったんですよ。
————ボーリング!
田村 子供がまだ小さいんで、投げるボールがとても遅いわけですね。コロコロとあまりにゆっくりなので、僕が勢いをつけてあげようと思って、入っちゃいけないレーンに入って行ったんです。そしたら、そこでズテーンっ! と……まぁ見事にずっこけまして。
————あらら。こけましたか!
田村 それで受け身を取ったときに両腕を打ったんです。痛さはそうでもなかったんですけど、もう恥ずかしくて恥ずかしくて……。周りを見ることもなく、静か~に席に戻りましたけど……。以上です!
————ああ、たしかにそれは恥ずかしいですねぇ。でも猪木さんの詩に「かいてかいて 恥かいて 裸になったら見えてくる 本当の自分の姿」というのがあります。
田村 なるほど! 深いですね。
————「冷蔵庫の納豆食べちゃってごめんね」という詩もあります。
田村 ハハハハ。その詩の深みはちょっとわからないですけど、裸になって本当の自分の姿が見れるような闘いをしてきます。以上です!
■7.31巌流島・有明大会の対戦カード、チケット情報はこちら→ http://ganryujima.jp/?grjm_events=way-of-the-samurai-%e5%85%ac%e9%96%8b%e6%a4%9c%e8%a8%bc-final