なぜ無差別級なのか? 巌流島史上、最も危険な公開検証に挑む!
お題………5・6巌流島・舞浜大会、ここに注目!
巌流島には、私がK-1で関わっていた仲間やスタッフは一人もいない。それは私自身が一から出直す上で過去のしがらみや人間関係に引きずられてはダメだと考えているからだ。しかも、できるだけ若いスタッフを集めようと心掛けている。
そういうわけで巌流島には、業界関係者はほとんどいない。そんなわけで、私はよく一から説明する機会が多い。最初の説明はこんな感じだ。
「武道とスポーツの違いって分かる?」
この質問に対して、ほとんどの人は「精神的なものですかね?」と答える。しかし、その答えでは10点もあげられない。答えは「スポーツはルールが全て。武道はルールなしが前提の中でいかに生き抜くかにある」ということだ。
スポーツとは、そもそも試合であり、ゲームである。その前提には「お互い公平な条件」で競い合いをすることにある。そのためにはルールが神であり、ルールさえ守れば、ギリギリの卑怯な戦術をとっても勝てばいい。格闘技で言えば、体重もお互いに合わせて、公平な条件のもと、競い合いをしようとする。つまり、スポーツマンシップというのは、ルールを絶対に守り、その中で正々堂々と闘うことにあるのだ。
ところが、武道というのは実戦が大前提にある。実戦とは戦であり、戦争である。もっと身近で言えばストリートファイトで、いかに自分の身を守り、相手を制す、殺すことにある。だから、厳密にいうと、そこはルールなしの何でもありの世界。武術の世界では、1対1だけでなく、1対複数も想定して稽古するし、武器術も研究する。さらにスポーツの世界では、絶対に反則となる目潰しや金的攻撃なんて、当たり前のように稽古する。それが武術の世界だ。
では、武道精神とは何かと言うと、ルールを守るのではなく、ルールのない世界でいかに人から評価されるような生き方をするかにある。スポーツ発祥の西洋では、ルールが絶対の神だ。法律というルールで、社会生活を構成し、聖書や経典のようなルールで道徳を身につける。ある意味、スポーツの世界と似ている。しかし、武道はそんなルールがなくとも、「お天道様が見ているから」という精神で自分を戒める。つまり、ルールはなくとも、自分の中で人から後ろ指を指されない生き方をするのが武道精神なのだ。しかも、その武道精神は、命のやり取りの実戦の中で磨かれるもの。命のやり取りに身を置いている時点で、ゲームとは決定的に違う厳しさがある。
実戦となったら、そもそも不平等が当たり前だと思わなければならない。相手は自分より大きいかもしれないし、小さいかもしれない。格闘技をやっている相手かもしれないし、自分の知らない武術を身につけているかもしれない。実戦経験も違うかもしれないし、戦績も違うかもしれない。武器を持っているかもしれないし、多人数かもしれない。
そんな実戦の状況で、相手に対して、体重を合わせてくれ。こういうルールでやろう。ここの技は使わないでくれと頼めないのが実戦。よーい、ドンで始めず、いきなり奇襲をかけてくるかもしれない。場所だって選べないのである。そこがルールを決めて、競い合うスポーツとは決定的に違うところだろう。
5・6巌流島。今回出場する菊野克紀と小見川道大の2人は、偶然にも無差別級の試合をしたいと言い出した。この2人がそんなことを言い出したのは、武道家としての感性があるからだろう。武道である柔道や空手、相撲は無差別級の試合も多い。したがって、彼らにとって無差別級は当たり前の感性として持っているかもしれない。
私は10年以上前に「須藤元気vsバター・ビーン」の無差別級の試合を組んだことがあるが、その当時は武道のことは全く考えていなかった。あの試合は、エンターテイメントの延長線上の話であり、今回の菊野克紀と小見川道大がめざす武道的な試合とは、全く動機が違う。
しかし、正直言って顔面パンチありの無差別級の試合は恐い。しかも相手はMMAとキックのチャンピオン。巌流島と言えども、ルールがある以上、競技になってしまう。本来、菊野や小見川がデカイ格闘技のプロに勝つには、金的蹴りや目潰しありの武術の果し合いの方がいいかもしれない。あるいは、椅子とか、凶器を持つとか。そんなハンディがあってこそ、公平になれる。ある意味、菊野や小見川は競技の枠の中で、正々堂々と武道精神を身につけようとしているのだ。これは巌流島史上最も危険な公開検証と言えるだろう。
主催者としても恐い。しかし、私自身も菊野克紀が言うように「巌流島は挑戦の場」だと思っている。今回の5・6巌流島、本当の意味での「無差別級の闘い」を知ると、より面白く見えるし、恐さも分かる。正直、緊張する。漫画のようにかっこよくいくわけがない。でも、そのロマンに挑む、菊野と小見川はやるだけで尊敬に値する武道家だ!
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『WAY OF THE SAMURAI 2017 in MAIHAMA』