今、明かされる山城美智師範直伝!「これがカポエイラ完全攻略法」だった!
お題………大好評! 9・2巌流島ADAUCHIの総括と裏側
●計量前
「菊野、レロの体を見てどう感じた?」
「うーん、デカイです。かなりデカく感じました」
「極限まで腕力を鍛え上げて、パワーアップしている。不自然なほどに。レロは飛び込んできた君に合わせてパンチで勝負を決めて来る気だ。飛び込むには覚悟がいるぞ。躊躇わずに入れ、相手はパンチで狙ってくるから、入ったら頭を振るんだ。直前の指示はしたくないし、試合前には忘れてもいい。でも今だけは意識しておくんだ。踏み込んだら左右に頭を振ることを忘れるな!」
試合の前日計量後、フェイスブックに上がった巌流島の計量後の写真を見て、すぐさま私は菊野選手に電話した。あまりの極限までビルドアップされた上半身に違和感を覚えた私は、すぐさま作戦の追加事項を練った。
しかし、その指示は簡潔にそして印象的でなければならない。
直前の指示なら尚更だ。
私は毎試合、試合の直前まで今までの訓練を無駄にせず、むしろ最大限に生かすための方法をギリギリまで考え抜いてきた。今回はその計画変更にまで行かないにしても、かなり神経を使ってきたことに、さらに加えてギリギリまで神経を使った。
ここに至るまで、いったいどのようなことがあったのかを書いていきたい。
数ヶ月前、マーカス・レロ・アウレリオ選手と試合が決まったとの報告が、菊野からチーム菊野のメンバーに連絡が来た。
しかも無差別級での試合とのことだ。
私からすれば、試合直後にカットで無効試合となってしまった前回のジミー・アンブリッツ戦よりも遥かに怖い相手だと思っていた。
今の菊野では勝てるだろうか? 経験的に蹴りの相手をどのようにするのか、彼は経験がないだろう。どうしたら今回の戦略を理解してもらえるか?
と、悩む日々だった。
実は今回は試合直前まで戦略を明らかにせず、トレーニングメニューの指示だけを出して、等々力のトレーニングジムCORE’Sの為谷トレーナーにお願いしていた。そのトレーニングは、「前に踏み込んで安定感を作る。前に飛び込みながら、そこに安定感を見出せるトレーニング」を指示していた。
今回の作戦には何が何でも必要な能力だからだ。 菊野は今まで十分に鍛錬を積んできた。その菊野に「カポエイラ」という相手の経験はない。この経験を埋めるべく、菊野自身でカポエイラの道場へ通い、感触をつかんできてくれた。
ここで初めて、私の戦略を伝えることができる。
●今回の戦略
「レロ選手の戦略を読み取り、渦が強くならないように、少しずらすこと。そして竜巻の渦の真ん中に“躊躇いなく”飛び込むこと」であった。
まず、レロ選手の戦略を読み取る必要がある。過去の試合の分析もそうだが、カポエイラという格闘技の特徴を理解しなければならない。
カポエイラという武術は、蹴りに特徴があることは確かである。
回転の蹴り。後ろ回し蹴り、上段廻し蹴り、鋭い後蹴り、プッシュ可能な前蹴り。
これらの竜巻のような攻撃の渦の中に入らなければならない。
この入り方がまっすぐ入れば良いわけではない。このことがわからないと、多くの選手のように、飛び込んだところ、逃げたところを蹴りで迎撃されてしまう。
次の図を見てもらいたい。
これは、実際に菊野選手たちに説明した際に使った図である(手書きでもっと汚かったけど)。
Aはレロ選手、Bは菊野選手を表し、円周はレロ選手の攻撃の範囲とその軌道で、危険ラインを示している。この青いライン上にいたらやられてしまうのだ。
Cを見てもらえばわかるように、Cにはその線は届かない。安全なクリアポイントである。
ABそれぞれから出ている矢印は攻撃のステップイン、ステップアウト、つまり一歩踏み込んだ状態、一歩下がった状態である。
多くの選手がレロ選手の蹴りでKOされてしまうのは、とくに一番遠い側のB’・B’’の場所である。ここでお気付きのように、Aの一歩分では届くはずがないが、実はここには二段蹴りの二発目以降が届く場所である。あの大ぶりにしか見えない二段蹴りや飛び蹴りは、この場所に追い込むための手段なのだ。
そのため、試合開始直後にレロ選手は大ぶりの飛び後ろ回し蹴りなどを見せ、相手をステップバックさせて直線的に下がらせている。そこに下がってしまうと、回転の回し蹴りで一気に2ステップ分詰めて、ちょうど当てることができる。
これがB’である。
このプレッシャーで直線的な動きを相手に誘発させるステップがA, A’のステップである。
また、分かりにくいが、レロ選手は常に前重心で深く腰を落として構えたり、ステップで左右に振っているような動きをする。これはカポエイラ独特の構えと動きであり、これをすると相手はプレッシャーを受けて、なかなか入りにくい。
このとき、左右に体を動かしているのは完全なフェイクで、相手の足を止めて、躊躇いを作らせ、何かあると前後の直線的な動きしかできないようにさせている。
武術的にいうならば、「見せている」動きなのだ。
また、前重心からさらに踏み込む時に遠心力を生むか、そこから下がるかのタイミングで遠心力を生み出す攻撃を行なっている。飛び込んで入ると、レロ選手は少し下がり、回転系の蹴りでカウンターを当てる。
これがB’’である。
私はレロ選手がこれを意図して行っていると見抜いた。
と、いうわけで、長々と書いたけど、これがレロ選手の戦い方なのである。
ここで、先ほど書いたように問題は「躊躇って見ること」なのである。レロ選手のカポエイラの闘い方をこうやって分析すると、自ずと闘い方が生まれる。
「常にプレッシャーをかけ続け、前に出る圧力を出させない。A,︎ A’の動きをさせない」
「相手の動きに騙されず、躊躇いなく、見すぎることなく入っていく」
「一度間が空けば、クリアポイントCに移動するような平行移動のステップで動かす。逆に見させる(躊躇わせる)」
●体重差
試合のオファー時、レロ選手の体重は85キロ、これも試合前の計量時の体重であり、菊野選手の試合前の計量時の体重は76キロであるから、これでも差は9キロもある。レロ選手側から腰痛があるので減量ができないと聞いていたので、まあしょうがないかなと思いながらいた。
菊野選手が無差別級で大丈夫というオファーを受けたので、私は相当ピリピリしていた。なぜなら、競技というのは階級差が命で、その差で簡単にやられてしまう。巌流島では無差別級が可能ではあるが、それでも不利であることには変わりない。
ところが、今回の試合前の計量の体重がなんと94.3キロ。なんの冗談かと思って画像を見たら、見事な筋肉隆々の体と、小さくなった顔。
おーい、話が違うじゃんかよ!
試合前に減量してこの体重かよ・・・・。
試合時には100キロ超かもしれねーじゃん。
しかもこの体重差、この体格、もしかして騙されちゃったのかな・・・?と思うぐらい、腹立たしかった。
しかし、だからこそ尚更負けられない。
負けてしまえば、これが言い訳になってしまう。
それで私はすぐさま菊野選手に電話した。
「躊躇わず入れ。パンチで狙ってくるから入ったら頭を振れ!」
●試合開始
試合開始直後、菊野選手が徹底的に前にプレッシャーをかけて入っていく。どんどん躊躇わず入り、それにレロ選手がパンチで合わせようとしてくる。しかし、頭を振って見事に避ける菊野選手。どんどんプレッシャーをかけることにレロ選手が押し込み返す。
レロは回転系の動きを封じられる。
なんとか下がらせたく、蹴りを出すがそれも織り込み済み。見切られてまたプレッシャーをかけ返す菊野。
沖拳式の「橋を架けて崩す投げ」を見事に決める。
少し足を気にするレロ選手。
それでも躊躇わずプレッシャーをかけ続ける菊野選手。
最後は自らの蹴りの最中、足を痛めてしまい転がってしまうレロ選手。
そこにすかさずパウンドに行く菊野選手。
主審が止めに入る前に拳を止める菊野選手。
勝利。
完全に勝利。
菊野の前に入る勇気、その勇気を確かにするための鍛錬、そして戦略、それらが全て噛み合った勝利。レロ選手は体重もパワーもスピードも備えていたが、自分の戦略を出せないことによる焦りから自滅をしたと言ってもいいだろう。
その自滅に追い込んだのは、菊野の勇気と鍛錬と戦略である。
完全な勝利。私はその瞬間そう思った。しかし、この過酷な試練を与えてくれたレロ選手には心から感謝と、勝つためにはなんでも取り組むその姿は尊敬する。
菊野も今回でまた大きく成長をした。私は今回の成長を、「菊野自身の力」だと、心から思うし、私もそれを願ってきた。
まあ、私は指揮官なので、戦略が良かったと言いたくなるのですよ(^o^)
前の試合で種市が非常に勇気あふれる試合をしてくれたことも、菊野の力となった。
●この試合のために
・トレーニングを世田谷のトレーニングジムCORE’Sの私のアバウトなイメージを具現化してトレーニングメニューを作ってくれる、優秀な為谷コーチ。
・メンタルトレーニングにより、日頃の菊野の不安や試合前のメンタル強化を行なってくれる、ALL DAY SPORTSのメンタルコーチ阿部先生。
http://alldayssports.com/corp/
・自らも試合に挑んだ闘う治療家・種市先生。
・そして世界一のミット持ち、ルタさんこと、弟子の藤田さん。
チーム菊野の力あってこその勝利です。
本当にありがとうございました!
種市の試合については次のブロマガで書くこととします。
ながーい文を読んでくださって、ありがとうございます。
9・2巌流島のレポートはコチラ⇒
『ADAUCHI 2017 in MAIHAMA』