「沖縄拳法空手に伝わる夫婦手(めおとで)で菊野克紀自身を高めていく!」
巌流島デビュー戦は、ムエタイ王者を相手に記録的な4秒殺を極めた菊野克紀。日出づる国・日本のサムライ菊野克紀を育てる沖縄拳法空手の師匠・山城美智氏と、菊野克紀本人に、前回大会と「10・21巌流島・全アジア武術選手権大会」についての話を聞いた。果たして、菊野克紀は何をどう準備して勝とうとしているのか?
伝説となった4秒殺の秘密から、10・21全アジア武術選手権まで。師匠・山城美智と菊野克紀が語る!
————改めて前回の“4秒KO劇”を振り返っていかがですか?
菊野 言葉で説明するのは難しいんですけど、「こういうこともあるよね」という感じです。
山城 可能性の一つとしてああいう結末も想定できました。もちろん、あれだけを狙っていたわけではないのですが。最後は菊野が覚悟を決めて飛び込んでいったのが最大の勝因ですね。
————緊張はしていましたか?
菊野 はい、緊張していましたね。闘う準備をしていたといいますか。
————まさか4秒で決着がつくと思っていましたか?
山城 でも4秒って勝負としては短いと思わないんですよ。一瞬の間にぶつかる時間というのは、通常1〜2秒しかないわけですから。4秒という時間を最大に活かした闘い方だったと思います。前蹴りから突きという理想的な動きができていました。
————菊野選手は、あの瞬間にどう動いたか覚えていますか?
菊野 覚えていますけど、何かをしようと考えていたわけではないんです。体に任せていました。
————相手の動きもよく見えていましたか?
菊野 相手の動きは気にしてなかったですね。練習で自然に前蹴りを出して、自然に頭をずらして、自然に突くという稽古をしていたので、それがそのまま出たということです。
山城 彼のリーチでは前後の動きに限界があるとわかっていたので、いかに左右の動きによって重さを載せて打つか考えていたんです。パンチと頭の重さをかけ合わせて、一発の重みを上げる稽古をつけていました。それが見事にはまったということですね。オープンフィンガーグローブを使用する場合に、どの角度で、どう当てれば一撃で相手を倒せるか研究して、実証済みでしたので、それがようやく形になってきたんだと思います。
菊野 試合のときはもう何も考えていませんでしたから、体に染み込ませていたものが自然と出たということです。沖縄拳法空手の原理をうまく出せたと思います。これはさらに発展させられるので、まだまだ伸び代はあります。
山城 色々な技を練習しても人間がいざというときに出せるものは限られます。そこで前回大会の一週間ほど前に、菊野が最も自然に出せる技は何かと考えて、それは「前蹴りと突き」だろうと。そこでこの技の精度を上げて臨みました。その成果が見事に出ましたね。
————「沖縄拳法vsムエタイ」と銘打たれていたのでプレッシャーもあったかと思うのですが?
山城 はい。これで負けたら、沖縄拳法はムエタイより弱いと言われてしまうので。これまで空手の色んな流派の方々がムエタイと闘っていますけど、なかなか勝てる相手ではありません。勝ったとしてもお互いボロボロになるケースが多い。菊野のように空手がムエタイに秒殺で勝つということはなかったと思います。打撃を受けて、前に倒れるときって完全に効いているんですよ。後ろに倒れるときは、力が分散して勢いで倒れているだけなので。それくらい菊野はうまく力を相手の頭に伝えて、一撃のダメージで倒したということです。
————やはり空手の一撃幻想は実在するんですね!
山城 その一撃も菊野の前に出るという気持ちがあったから出来たことです。それがなかったら、あのシーンは生まれませんでした。恐怖を克服した菊野自身の勝利です。
菊野 一撃というのは目標ではなく、あくまで結果なんです。試合直前まではすごく緊張していたんですけど、いざ試合が始まったら勝ちを捨てるというか、もう捨て身で行きました。前に出るリスクを取って行けたというのがよかったですね。物理的に前に出るだけでなく、精神的にビビらずに前に出るということが大事。最後は自分を信じて行くしかないですから。
山城 彼はすごく緊張していたし、すごく怖かったと思うんです。不安があったでしょうし。でも試合が始まってすぐに前に出ていく菊野を見て、これは勝てる!と直感しました。それくらい最初の出方が良かったです。いけると思った次の瞬間にはもう勝っていました。もちろん勝負は紙一重の差ですけどね。
————次は「全アジア武術選手権」に臨むことになりますが対策は?
山城 対策というよりは、菊野自身の完成度を高めるということをやっています。次に何を身につけさせるか。徐々に円グラフのすべてを埋めていくように強くしていくイメージですね。今は、両手を攻防同時に連動させることで、力を抜きながら爆発的な威力の打撃を放つ「夫婦手(めおとで)」の指導をしています。
————夫婦手ですか?
山城 両手を夫婦と考えて、左右の動きが連なることで、全身の重みを乗せて打撃を放つものです。夫婦というのは放っといても仲良くはしないんですよね。仲良くさせようとする努力が要る。そこでそのための身体操作が必要になるんです。
————はぁ〜、そんな技術があるとは知りませんでした。
山城 夫婦手は昔の沖縄空手では当たり前の技術だったんですけど、今では出来る人も教えられる人も少なくなりました。こうして伝承できるのは意味のあることですよね。
菊野 単純に両手の動きを合わせるだけでなく、丹田や背中、肩甲骨と連なってはじめて出来る動きです。すごく深い技術ですよ。
山城 その動きを鍛錬する方法が沖縄空手にあって、この夫婦手を体得すれば、手がちょこんと当たっただけで相手を倒せるようになります。
————ちょこんと当てただけで倒す! ぜひそんなシーが見たいです!
菊野 そのためには対策というよりも、鍛錬して自分自身がもっと強くならないと。トーナメントだと誰が上がってくるか分かりませんし、研究しようにも未知の選手が多いですからね。第一試合でやるテコンドーとの対戦も人生初体験になります。まさにゲームの「ストリートファイター」の世界です。モンゴル相撲、散打、ハンド・トゥ・ハンド、カンフートーア。できることなら全部やってみたいですよ。世界中の未知の武術を体感できるなんて、巌流島でしかできない贅沢なことです。しかもその中には柔道代表の小見川道大選手という超強敵も入っている。怖いし、不安ですけど、同時にすごく楽しみです。
————テコンドーの選手と練習したことはありますか?
菊野 本格的なテコンドーの選手とはないですね。
————そうなるとテコンドーは練習も含めて、まさに初遭遇になるわけですね。気をつけるべきは足技でしょうか?
菊野 そうですね。でもあまり気にしすぎても後手後手になってしまうので、やはりそこも気持ちの勝負ですね。どうしても攻撃を喰らうときは喰らうものなので、そこは怖がらずに前に行かないと。あえて作戦を挙げるとすれば「自由になる」ということ。打撃でいこうとか、組みにいこうとか囚われずに、状況に応じて自由自在に闘うことです。
————ひとつ一つの試合に集中していくということですね。
菊野 もっといえば、その瞬間瞬間にすべてをかけるということです。普段から言っているように、僕は対戦相手が試合の直前まで分からないくらいでもいいと思っていますので。実戦を基にして考えれば、現実では相手の対策なんて出来ないことのほうが多いでしょうから。
————そんなテーマを考えさせられるのも巌流島ならではです。
菊野 あとは1日3試合を闘って一番になるという経験も、そうそう出来ることではないので楽しみにしています。
————最大3連戦になるのも不安というより楽しみ?
菊野 はい。その中で自分が一戦一戦、しっかりと気持ちを作れるのか? 勝ち進んでダメージが溜まったときに、自分がどうなるのか? そんなことを実体験できるのは楽しいなぁと思いますね。そして希望をいえば、小見川さんに決勝に上がってきてほしいです。決勝の舞台で、大好きな小見川さんと本気でやり合ってみたいですね。
『全アジア武術選手権大会 2016 in TOKYO』チケット情報