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実戦(武術)と競技(試合)は全く違う。プロの格闘家でも実戦で勝てるというわけではないんです!

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総合実戦護身術・功朗法 横山雅始師範インタビュー

「卑怯じゃないか」と言われることをやって身を守るのが武術

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横山先生の武術歴を教えてください。

横山

中学時代から自分の家でやっていました古流武術を習いまして、中学が終わる頃に関西の大きな空手団体に入り、しばらく空手をやっていました。20代半ばまで空手で色んな大会に出ていたんですが、それから少しブランクがあり、30歳くらいから日本とヨーロッパの国際交流の仕事をするようになりました。ちょうどそれが湾岸戦争の頃でして、フランスやイギリスで警備隊・憲兵隊が実用的に使える技術を開発して教えてくれないかといわれて、現在の『総合実戦護身術・功朗法』の原型となるものを教えていました。今は甲冑をつけて戦国時代の合戦を再現するということをやっています。これは、日本でやっている戦国時代の行事を見ていますと、いわゆる、ゆるキャラが出てくるイベントや寸劇であって、リアルに合戦を再現するものがないんですね。ヨーロッパでは騎士祭りというのがあって、リアルに闘いを再現する行事があります。日本には伝統的な武術があるわけですから、そういった武術を駆使して、リアルに合戦を再現したらどうなるのかと思ったんです。現在行われている伝統武術の技が使えるのかどうか。甲冑をつけて闘う日本武術のルーツに戻してみたらどうなるか、というのが今やっている私の試みです。

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イギリス、フランスなどの軍隊や警察で武術を教えていたんですね。

横山

軍隊や警察もそうですし、一般の方々にも教えていました。フランスの国家憲兵隊に教えたりしていたのですが、彼らが言うには自分たちの仕事にフィットした技術だということなんです。

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彼らは戦争とかテロとか、いわゆる実戦をやっている人達ですよね?

横山

はい。そういう人達が現場で使えるようなものは何かということですね。単純に武術ですと、彼らはすでに空手の有段者であったり、格闘技を長年やっていたりするわけですが、閉鎖空間で何かが起こり、隠れている相手をどう捕らえるか、暗がりでどう闘うか、大人数のときにどう対処するのかといった戦術アイデアと、現実的な技術を両輪で行うことが求められるわけです。

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そこではどんなアイデアと技術が求められるのでしょうか?

横山

例えば、まっすぐ向きながら横にいる人間が見えるかというと、それでは自分の認識視野に入ってこないわけですね。ところが少しうつむくと横が視界に入るようになる。横から誰かが近づいているのに、憲兵隊がまっすぐに信号を見ていたら、横からナイフで刺されて銃を奪われるわけです。これが横の認識視野を確保していれば対処できる。リスクコントロールというアイデアであり、戦術ですね。体を使ってフィジカルで何かをするという技術ではないんです。フィジカルに関しては実際に襲われたとき、次にどうするかということをやるわけです。

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実戦ですから、ナイフや拳銃などの武器のことを想定してやっているわけですね?

横山

武器を想定しますので、素手の殴り合いはほとんど想定していません。殴り合いの練習もやらないわけではないのですが、素手の殴り合いというのはやらなくても済む場合が多いわけですね。そこで自分がもめ事を作ってしまうことが問題であって、もめ事にしなければいいんです。それでも避けられないとなったら、もし周囲にイスがあったらそれを持つと。そのときに相手が素手でもやる気を起こすか?ということなんです。そこで相手が攻防をやめれば、争わなくて済んだということになります。そうなると素手の技術よりも、相手がイスを持ったときにどうするかということのほうが大事になるわけです。

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ここ20年くらい世界中で格闘技がブームで、様々なイベントが開催されてきたわけですけど、横山先生がやられている武術と格闘技の試合というのは別のものですか?

横山

私は根本的に違うものだと思います。格闘技は決められたサイズのリングがあって、そこに何も閉鎖する障害物がない、足下を邪魔するものもないということですよね。実際、今インタビューをしている部屋でも色んな道具が置かれていたり、物が散乱しています。ドアを開ければ外に出られるので限られた場所でもない。言葉を使って一時的に相手をトリックに引っかけることもできます。そういう意味でよーいドンでフェアに始まる格闘技は、我々がやっているものとは違うものだと思います。また、我々が目を狙った目打ちをするけど、格闘技ではルールで目打ちが禁止されているから違うとおっしゃる方がいますが、そういうのは細かい話であって、どちらでもいいことだと思うんです。そんなことじゃなくて、我々は実際にドアがあって、机があって、服を着て、靴を履いて、ペンを持ってという状況の中で生きているわけです。その状況で実際に闘わなければいけない状態になったら、服を脱いで使うこともできるし、ペンを相手の顔に投げることもできる。ですので、素手で最初から最後まで闘う格闘技とは根本的に違うということです。

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とうことは格闘技の試合で強い選手が実戦でも強いかというと、イコールではないということですか?

横山

イコールではありません。我々が障害物など現実的な空間を設定してセルフディフェンスで強いといっても、格闘技のリングの上で強いという保証はまったくないわけです。重なり合う部分はありますが、完全にイコールではありません。格闘技で強い人はもちろんフィジカルが強いです。ただ、その方が私と言い合いになり、私が平身低頭して「すみません!」と謝り、相手がじゃあ許してやるよと背中を向けた瞬間に、自分の靴を脱ぎ、それで相手の後頭部を殴って裂傷を負わせたとします。それで結果、どっちが勝ちましたか? ということですね。これは私の勝ちなんです。ところが正面から闘い合ったら、おそらくその格闘家が勝つでしょう。でも私には正面から闘う気がないので、相手をうまく騙して、後ろを向かせて勝ったと。本来、武術というのはそういうものだと思うんです。“どうすれば勝てるのか”が究極のポイントであって、どうすればフェアに闘えるかがポイントではないということです。

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どう身を守るか、どう生き延びるかがポイントであって、どうフェアに闘うというのは頭にないと。

横山

相手が後頭部に裂傷を負って「卑怯じゃないか」と言ったとして、私が「いや、あなたがイスを手に取ろうとしたからやったんですよ」と言ったとします。それを立証できる人はどこにもいないわけですよ。つまり、私は明らかに有利な立場にいる。武術的な勝負で考えれば、私のほうが有利な状況にあるということなんです。非常にトリッキーなことをしたから有利な状況を作れた。では人間的にどうかというと、私のほうがダメでしょうね(笑)。法律的にもダメでしょう。でも相手がもういいよと言って、こららから謝って帰してもらい、そのまま放置されたら法律的にも問題になることはない。本来の護身術というのはそこで終わりにするべきなんです。相手が帰してくれたなら、それでOKということです。

戦場で日本刀はほとんど使えない。柔道の大技は役に立つ!

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横山先生がやられている甲冑の闘いを詳しく教えてもらえますか?

横山

我々の甲冑合戦は、武術的なルーツを求めてやっています。甲冑をつけて闘った時代の日本の実戦的な武術がどういうものだったかは、あまり知られていません。今伝えられている古流武術は、各流派の先生方が型を中心にやられていて、実際に地稽古や多人数の合戦形式をやって、その技が本当に使えるかどうかを試している方はほとんどいらっしゃらないと思うんです。そういう意味で我々は実験として、『ガチ甲冑合戦』をやっているんです。

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どういったルールでやっているんでしょうか?

横山

小具足に銅と兜を装着し、刀、短刀を持ち、槍を持ちます。槍の強撃を相手の兜ないし肩に入れれば、それで死ぬわけではなくても大きなダメージを与えられるので、次の瞬間に飛びこみ、相手の甲冑の隙間めがけて槍で突くことができます。したがって槍で強烈な一撃が入った時点で審判が止めて、勝負ありということになります。次はお互いの槍と槍の柄が重なって、そのまま組み打ちになった場合にグラウンドに持ち込みますが、先に短刀を抜いて相手を刺したほうが勝ちになります。危険防止のために顔面にはフェイスガードをつけていますが、それでも顔面を突く行為は禁止されています。ただ、兜を突く、叩くという攻撃は認められます。

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その禁止事項以外は、パンチ、キック、投げ、グラウンド、関節技、なんでもOKだと。

横山

そういうことです。

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関ヶ原などの古戦場で「50対50」とかの集団戦もやられているんですよね?

横山

はい。集団戦をやると何が見えてくるかというと、相手の兜に一撃を入れて怯ませて槍で突けば勝ちになるのですが、周りにも敵がいるので、それをしようとした瞬間に自分が突かれてしまうということなんです。そうなるとトドメを入れようとしてもなかなかできない。つまり、それまで使えていた槍や刀の技がそこでは使えないということがわかるわけです。

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空手や柔道、キックボクシング、総合格闘技などの技は戦場でどのくらい使えるものですか?

横山

まさにそれを検証するために我々はやっているわけですね。まず柔術や合気道の小手返しはかかりません。実際に組み打った状態でやってみましたが、防具の鉄板を紐でぐるぐる巻きにしていますし、自分の手にもグローブのような手袋をつけていますのでなかなかかかりません。半分くらいまではかかりますので、そこから短刀を抜いて斬ることもできます。ただ、完全に極めることは難しいです。それよりも有効なのは「柔道のような投げ技」。大技ですね。あれが比較的に組み打ったときにかけやすいです。あるいは兜を掴んで首投げに持っていく。または鎧の鉄板を掴んで利用するということが効果的な技になります。

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打撃はどうでしょうか?

横山

甲冑は鉄板でできているので打撃技が効くということはありません。

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合戦だと“転ぶ”ことは致命的ですか?

横山

集団戦だと相手を倒して組み打ちに持っていっても、周りから敵が寄ってきて槍で刺されて終わりです。そうなると、みんな組み打ちに持っていくことは極力避けるようになります。あとトドメをささずに相手を弱らせる程度で置いておきます。勝負を決めようとして無闇に飛び込むと、自分もやられてしまいますから。実際の戦国時代の資料を見ますと、関ヶ原の合戦では東軍と西軍合わせて約16万の兵士がいたそうです。そのうちの6〜7割ほどが闘ったひとたち。あとは物を運んだりした人達です。その中の死者が8千人ほどですから1割に満たないわけですね。つまり相手に多少のケガを負わせて退いてくれれば、それでよしということであって、そうやって相手をどんどん押し込んでいくのが集団戦です。無理してトドメをささなくてもいいんですね。

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武器では槍が一番有効ですか?

横山

そうですね。武将槍というもので約3メートルあり、足軽の槍だと6メートルあります。この長さだと振り回したり、叩くだけで遠心力がかかり、大きな威力を発揮しますので、火器を除いては槍が一番の武器になります。

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刀はどうですか?

横山

刀ですと甲冑の鉄板を斬っても斬れませんので、隙間を突くしか方法がないわけですね。槍とは長さが違いすぎるので、戦場で刀を振り回すということはまずありません。当時の資料によると、刀での死傷者は数パーセントにも満たないわけです。それくらい刀は使われていないということですね。我々も実際に甲冑合戦をしていると刀は邪魔になって仕方ありません。組み打ちになって刀を抜くなんてこともないです。短刀を抜いて刺したほうが、より簡単にことが済むわけですから。

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今度、3月25日の巌流島でガチ甲冑合戦を披露していただくのですが、どういうところを見てほしいですか?

横山

武術的な部分を見てほしいですね。槍の攻撃をどうしのいで、槍でどう攻撃するのか。組み打ったときどう短刀を使うのか。どんな技を使うのか。あるいはもっと分かりやすく、甲冑同士で闘ったら果たしてどうなるかというのを見ていただきたい。映画だと甲冑ごと刀で斬られて倒れてしまいますが、そんなことはありえません。刀を使うのであれば、振り回して強劇を与え、骨折させてから短刀を抜いて刺すという攻防になります。そういうサムライたちの現実の闘いを見てほしいですね。

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プロの格闘家がガチ甲冑合戦に参加したら、どうなると思いますか?

横山

その方が長い槍や短刀をどの程度使えるかという武器の勝負がポイントになります。組み打ちになれば、その道のプロである格闘家のほうが強いでしょうから、何とも読めない部分がありますが。ただ、まったく武器を触ったことがない方だったら、10秒くらいで負けてしまうかもわからないですね。

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つまり合戦であれば10秒で死んじゃうということですよね。

横山

それでも運動センスと感覚がすごく良くて、武器を持った瞬間に使い方がピンと来るような方はいい勝負をするかもしれないですし、うまくいけば勝てるかと思います。

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格闘家がガチ甲冑合戦に挑戦したいと言ったら可能ですか?

横山

やってみようという方が増えるのは嬉しいことなので、いつでも歓迎いたします。

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《 3.25巌流島「功朗法」横山雅始総師範館長のインタビュー映像 》

是非ご視聴くださいませ!

インタビュー:谷川 貞治

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