GANRYUJIMA BLOG巌流島ブログ

闘争、美学、そして享楽。巌流島の理想を体現するのは誰だ?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

niconico動画の『巌流島チャンネル』でほぼ毎日更新していた「ブロマガ」が、オフィシャルサイトでパワーアップして帰ってきました。これまでの連載陣=谷川貞治、山田英司、ターザン山本、田中正志、山口日昇に加え、安西伸一、クマクマンボ、柴田和則、菊野克紀、平直行、大成敦、そして本当にたまに岩倉豪と、多種多様な方々に声をかけていく予定です。ぜひ、ご期待ください!

5月17日(火)のブロマガ………お題『巌流島・公開検証Final』に期待すること

文◎柴田和則(巌流島・事務局 海外選手ブッキング担当)

文◎柴田和則
(巌流島・事務局 海外選手ブッキング担当)

 

7.31有明で「公開検証」は最後になるという。巌流島は公開検証を続け、それ自体を存在意義とするのかなとも思っていたのだが、ひとまず検証シリーズは終了となる。

谷川さんの真意は完全には測りかねるが、同時に私自身、巌流島が今後どのベクトルに向かっていくのか楽しみに見ている。

巌流島の現時点での総括は、「世界中から異種ジャンルが集まる、美しい闘いを理念とした、世界最高峰の打撃格闘技の舞台」ということになるだろう。

これは「武術(異種ジャンル)」×「武道(美しい闘い)」×「エンターテインメント(最高峰の打撃)」の融合を意味する。

何がやりたいんだコラとの指摘(突っこみ)を受けることの多い巌流島。それには私も少なからず同意する。しかし、上記の三要素が理想的な形で化学変化を起こし合えば、世界格闘技の現状を転覆させるくらいの強力なコンテンツが生まれるのではとも思うのだ。

勝つだけじゃない、美しいだけじゃない、楽しむだけじゃない。と同時にそのすべてでもある。そんな前人未到の「プロ武道」が誕生するかもしれない。

急速に収縮し、内向きになっていく日本人。その日本人が自身のアイデンティティを知り、自分たちの武器を知り、もう一度、世界に対して仕掛けるのである。

1(サムネ)

現時点で「武術」「武道」「エンタメ」を理想的な形で体現している選手は、カポエイラ代表として巌流島に参戦しているマーカス・レロ・アウレリオではないだろうか。

3.25TDC大会の控え室でレロと雑談しているときに、彼が面白いことを言っていた。「アフリカの巨漢ファイターたちと自分も闘いたい」というのだ。アフリカの巨漢ファイターとは、ボンギンコシ・マドンセラやグリス・ブドゥ2のこと。いずれも150kgクラスの超ヘビー級の選手だ。対するレロの体重は、半分ほどの80kgである。

その怪物たちを相手にレロは「僕にも彼らとの試合を組んでくれよ。やってみたいなぁ。彼らを相手にどう闘おうかなぁ。あっちのほうがパワーは上だけど、僕にはスピードとテクニックがあるからね」と、ニコニコと実に嬉しそうに語るのだ。

これは通常の北米型MMAの選手では考えられない発想だろう。むしろそんなオファーを振ったら、「非常識だ!」「安全面はどうなる?」「私を侮辱するのか?」「そんなものはジョークだ!」と非難にさらされるはず。それをレロはこちらから頼んでもいないのに、嬉々として自ら提案してくるのだから、私は彼の爽やかな笑顔に狂気さえ感じるのである。

これには彼のバックボーンが大きく影響していると思われる。物心ついた頃から、カポエイラ・マスターの称号を持つ父親に手ほどきを受けてきたレロの根底には、MMAファイターではなく“武術家”としての血が流れているように思うのだ。

そこは、そもそもが命をかけた戦闘術であったカポエイラ。自分たちを奴隷化している支配者たちと対峙し、生死をかけて闘おうというときに「ちょっと待て! そっちのほうがふた階級くらい体重が多いじゃないか! ずるいぞ!」と訴えてもしょうがないわけである(笑)。カポエイラ一家に育ったレロにとっては、格闘技とはただのスポーツではなく、大前提として、いかに勝つかを考える武術だという感覚があるのではないか。

2

そのうえでレロの闘いは圧倒的に美しい。ただただ合理主義のみで考えれば、カポエイラ式の逆立ち回転蹴りは捨ててしまうべき技かもしれない。しかし、レロは自身のカポエイラ継承者としての美学にどこまでもこだわり、己が信じる理想の闘いを貫く。それは日本人がイメージする武道的なサムライ像とも合致するものだ。

そしてまたブラジル生まれのラテンの血がそうさせるのか、レロは誰よりも人をエンターテインすることにこだわる。その過剰なまでにサービス精神旺盛な姿勢は「なぜそこまでするの?」と聞くのが野暮に感じるほど。レロは人の生活における“魅せる”ということの価値をよく理解しているのだろう。それは戦闘術から舞踊へと形を変えて、現代まで残ってきたカポエイラならではの哲学かもしれない。

偶然か、はたまた、なるべくして巌流島に導かれたのか。レロは見事に「武術」「武道」「エンターテインメント」の三要素を併せ持っている。

格闘技としてのルールやスタイルはもちろん大事だが、何よりも彼のような心に“武道”を持った選手たちを招いて、それぞれの美学がぶつかり合う舞台となれば、巌流島はMMAなど軽く超越して、世界における唯一無二の存在になるだろう。

それこそが巌流島が日本で生まれた意味性であり、必然性だ。

これからも様々な試行錯誤を重ねて、『巌流島 –Samurai Warrior-』を世界に広めていきたい。今後も形を変えながら“検証”は続いていくことだろう。そうして皆さんと一緒に“世界一の舞台”を作っていければと思う。

とりあえず、今は「7.31有明・公開検証Final」の行方に注目にしたい。

(完)

 

ちなみに、以上の「武道とは何か」「日本人とは何か」「生きるとは何か」をテーマとして、シリーズ発行されている書籍が『大武道!』。谷川貞治、山口日昇、私らが“世の中と武道する”ために作っている読み物です。ぜひ巌流島とあわせて、『大武道!』も手に取ってみてください。と最後に大武道・編集部長の立場から、宣伝で当テーマを締めさせていただきます(笑)。

大武道!→ http://oh-budo.tokyo/