選手を生かすも殺すもプロデューサー次第! 菊野vsソウザは危険な賭けです!
今週のお題……………1・3 巌流島・世界武術団体対抗戦2017の見所
選手を生かすも殺すもプロデューサー(マッチメイカー)次第。
その意味で「最強」は選手より、実はマッチメイカーなのです。大概の選手は、マッチメイクで簡単に潰すことができます。もちろん、そこをくぐり抜けてチャンピオンになる選手もいますが、ボクシングを見ても分かるように、プロデューサーにとってマッチメイクで選手を育てあげるのは大切な仕事です。そうじゃないとスターは生まれない。
スター選手を育てるために、選手にマッチメイクで自信をもたせたり、お客さんに「この選手、強いな、面白いな」とインパクトを与える。そんな試合ばかりやっていても強くならないので、その選手の課題となる試練となるような相手を、時にはぶつける。そうやって、スター選手は試合で作っていくし、スター選手のドラマを作っていくのが、プロデューサーの役目なのです。
僕はそうやって、魔裟斗やKID、須藤元気、所英男といった人気選手を作ってきたし、人気が出た選手は、そのへんの意図をよく理解し、本人たちの努力でその試合のテーマをクリアしてきました。たとえば、ボブ・サップにしても、最初にホーストではなく、ピーター・アーツやセーム・シュルトを当てていたら、彼は違った運命を歩んでいたでしょう。また、ホーストもボブ・サップにやられたことで、初めてミスターパーフェクトが人間らしく思えて人気が出てきたと思っています。とにかくマッチメイクで選手を生かしきれるか、それがプロデューサーとしての腕の見せどころなのです。
僕はマッチメイクを組む時、明らかにどちらかの選手に何らかの意図を持った方が、ファンに伝わると思っています。よく意味のわからないマッチメイクは、どんなにファイトマネーを積んでいい選手を呼んできたとしても、ファンには全く伝わりません。どっちを勝たせようと思っているんだ? でも、そのプロデューサーの思惑は外れちゃうんじゃないか? 選手はこの課題を乗り越えられるか? これはちょっとヤバいんじゃない? とファンが空想できるくらいじゃないと、見てもらえないでしょう。「この試合、誰が得するんだ? 」みたいなカードは、一番よくないのです。
何が言いたいかというと、1・3の菊野克紀選手の試合のことです。菊野選手や小見川選手のような選手は、僕にとって「再生」が一つのテーマでした。二人とも凄く潜在能力のある選手ですが、全く生かされてなかったり、負けが込んだりしている。僕が触りたいと思っていた選手たちです。さて、彼らをどうやったら輝かせられるか? そのマッチメイクと企画がプロデューサーの仕事。バダ・ハリが「俺が触ったものは金になる。オレはゴールデンボーイだ」と言ってましたが、プロデューサーこそ、選手を「金」にしなければいけません。
巌流島で、それを2人は見事にクリアしてきた。特に菊野選手は4秒で勝ったり、アジア選手権で優勝したり、ガチ甲冑合戦までやって、頑張りすぎるほど頑張ってきました。僕は菊野選手にも、小見川選手にも「自分の巌流島にしてほしい」と言っていたのですが、今や菊野選手は押しも押されぬ巌流島のエースになりつつあります。
精神的にきつい試合が続けたこともあり、お正月ということで、本当は今回、菊野選手は軽い相手にしようかとも考えました。しかし、それでもメインはメイン。イージーな相手では客が呼べません。そこで最初、僕は×××××を考えました。彼なら誰とやってもいい試合をする名勝負製造機だし、実績も申し分ない。今の菊野選手だったら、十分勝機があるし、負けても絶対に輝く試合になるだろうと思いました。菊野選手に聞くと「いいですねぇ」と喜んでくれた。ところが、その選手がNG。さて、どうしたものか?
そこでつい、菊野選手に「UFCで負けたヤツとか、どうなの? ケビン・ソウザとか?」。普通、今のような上り調子だと「うーん、ちょっとそれは……」と困ってもいいはずです。ところが、菊野選手は武者震いのような反応を示した。××××とは違う反応だけど、嬉しそうなのです。その反応を見て、僕の方がちょっと後悔しましたが、「よし、探して口説いてみるよ」と言ってしまったのです。
実を言うと、僕が「ケビン・ソウザ」の名前を口にした時、僕は彼の映像すら見ていなかったのです。改めて見ると、リーチは長いし、めちゃくちゃ強いし、菊野選手にとってはやりにくい相手。戦績を見ても、UFCがなぜリリースしたのか分からないほどバリバリのファイターでした。僕はそこでまた後悔。UFCの試合を見る限り、菊野選手の勝機は全く見当たらないのです。
これはえらい名前を出しちゃったな。それにしても、よくこんなヤツと再戦する気持ちになるな、と菊野選手のことをますますリスペクトしました。一言で言えば「触らぬ神に祟りなし!」みたいな相手なのです。はっきり言って、僕がRIZINのような他団体のプロデューサーだったら、「菊野くん、やらない?」と誘うような、菊野選手を潰すための相手みたいなものです。石井館長だったら「谷川さん、スターを育てるには時間がかかるけど、潰すのは一瞬なんだよ」と怒られていたかもしれません。これは巌流島にとっても大きなリスクです。
・今、菊野選手に完敗してもらったら巌流島として困る。
・もしかしたら、菊野選手が完敗したら、「巌流島がMMAに負けた」と思われないだろうか?
・しかも、負け方によっては、菊野選手の心まで折れちゃうじゃないだろか?
・今、巌流島にとっては、MMAがやっぱり一番強んじゃないかという、結論が出ても困る。
普通、巌流島にもう少し余裕ができたり、菊野選手がもう少し勝ち続けてから組むのがソウザ戦。冒頭に僕が言っていた「スターを作る」マッチメイクではなく、選手を潰すための選手みたいなものです。正月くらいみんなハッピーエンドを期待しています。それなのに、なんで、そんな試合を僕も菊野選手も自分からやるんだろうね〜と後悔。
しかし、だからこそ菊野選手が勝ったら、大きな見返りがあるのも確か。お正月気分でとても見てられないような大きなリスクを抱えた、この一戦。僕が踏み切ったのは、菊野選手をやっぱり信頼しているからでしょうね。
巌流島は菊野克紀のホームグラウンド! 凄い武道的な試合をぜひ見にきてください。
チケット絶賛発売中!!
『世界武術団体対抗戦 2017 in MAIHAMA 日本代表 vs 世界選抜』