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菊野のムエタイ「4秒KO」の陰には沖縄拳法があった! その秘密を師匠・山城美智が解説!

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9月27日(火)のブロマガ………お題「4秒KO殺・菊野の強さの秘密」

文◎山城美智(沖縄拳法空手道「沖拳会」師範)

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今回、菊野克紀選手はムエタイの強者クンタップ選手に対し、右の突き一撃でのKO勝利を収めました。これまでに菊野の試合にどのような取り組みがあったか、ごく一部ですがご覧ください。

今だから言えますが、私は彼に指導する際、100%教え切ったら、試合には10%か20%残っていればよいと思っています。

だから、無意識に出る技、無意識に角度を相手の一番衝撃が残りやすい場所、無意識に重心移動と重さを残せる動きを、徹底的に教えてきました。

総合格闘技に使われるグラブは、ボクシングのそれとは違い「どの場所に」「どの角度で」打つことが最適な効果が出るのかが大きく異なります。

簡単に言うと、ボクシンググラブと総合のグラブ(巌流島仕様のグラブ)では、打撃に対する概念が本質的に異なります。そのため、ボクシンググラブで行うような打ち方では、なかなか倒せない。

そのため、このグラブの特性を研究し、それと沖縄拳法の打撃の質を加え、ある場所に瞬間的な振動を与えた際に、相手の意識を遮断しKOできるようにしました。その場所を確実に当てて効かせるための稽古も行いました。

また、彼自身もそこまでの効果が出るかどうかわからない疑問もあったでしょうが、信じてくれて稽古してくれました。

格闘技に詳しい方々には「こんなに頭を振って打つようなパンチの打ち方、見たことがないですし、効果があるんですか? 通じると思うんですか?」といわれて笑われたりもしました。

しかし、この方法こそ純粋な打撃の原理で、物理的にも生理学的にも確実に効果がある方法論を取っているだけに、否定する理由が見つからない。だから、私はそれを推し進めた。

時間はかかったけど、効果が出たことをやっとわかってくれたんじゃないかと思う。

今回、いくつかの要因が勝敗を決している。

まず、打撃の威力。

これはムエタイほど打たれ強い選手はいないし、元チャンピオンなら尚さら。それだけの人間を一撃で気絶させたというだけで、十分だと思う。

これは大げさではなく、空手史上、格闘技史上の大きな快挙だと思っている。本当に感動したし、今でも身が震えるほどすごいことだと思う。

しかし、私が教えたのは打撃の威力を最大で当てて一撃で倒そうと狙うことではない。

むしろ逆に、普通の人の打撃が100%とすれば、沖縄拳法の打撃は少なく見積もっても150%になる。

しかし、それを分割して、80%程度の威力でよいので、数を分散させてすべての打撃の質をあげることで、リスクを分散させることを強く教えている。

一撃狙いなど、最初から一度も狙わせていない。

当たれば一撃で倒せるならば、当てる技術と、当てにいくメンタルと戦略の方が重要である。

しかし、結果として当たった一発目が、強烈な一発目であったというだけで、それが一撃必殺になったということである。

これが私が菊野選手に教えてきたことである。

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ファーストコンタクト。

まず、菊野選手が腹を決めて、自分から前に行った時点で勝ちはそこにあった。

なぜなら、ムエタイとは元々前に出て行く競技ではない。

相手を見て、向かい合ってそれで撃ち合う競技だ。

ムエタイの怖いところは肘と首相撲。

しかし、総合格闘技自体、それらを前提に作られている。

簡単に言うと、総合格闘技とは

ボクシング+ムエタイ(キックボクシング)+レスリング+柔術

の割り算である。

さらにはリングではないので、後ろにもたれることもできない。

首相撲をされても、首相撲とはリングがあることを前提に作られた技術なので、重心が高い。だから、総合のテイクダウンで倒せる。

ムエタイ選手が総合格闘技でその技術を生かしきれないのはそこにある。テイクダウンまであるのなら、そこまで首相撲は生きない。

だから総合に近いならどんどん前に出てプレッシャーをかけて行くほうがよい。または、前に出る勢いを出させないことが大事だ。そういう前提で試合のシミュレーションを行ってきた。

そして最初の相手の打撃が前蹴りではなく、ミドルキックであったということ。

これが正直、運がよかったというしかない。

しかし、私はそれは狙っていた。

私は彼らムエタイが一番練習している、最初に出す打撃技はミドルキックだと思っていた。

だからファーストコンタクトで前蹴りを打つことはないと思っていた。

前蹴りがちょうどクンタップのミドルをストッピングする形になったことで、右のクロスは少しだけ届かなくなり、結果、菊野に対して打撃は当たらなかった。

あの右のクロスはクンタップ選手の打撃を避けて打ったのではない。

前蹴りが綺麗に腰に当たったからこそ、クンタップ選手の右の打撃はすでに死んでいたのだ。

タイ人だから、おそらくリーチは菊野選手より上だと思う。パンチのスピードも打撃の速度ももちろん、素晴らしい。

ここで前蹴りから入れて、相手のミドルを抑えたことが、勝機を作れたと思われる。

右のクロスが当たった。私は当たる場所も総合のグラブでのKOポイント、KOラインというのを研究してきた。

ボクシングのグラブではテンプルとチンなのだが、それはボクシンググラブならではの打撃であり、それではなかなか総合のグラブでは相手を倒せない。

耳の前から首筋にかけて、このラインこそ、総合グラブでのKOラインである。これを確実に打ち抜くためにフック気味の沖縄拳法の突きを何年も仕込んできた。最近まで本人もその自覚はなかったはず。

問題は威力だが、腕力では限りがあるのと、打たれ強い相手はボクシングのワンツーでは倒せない。また、ボクシングのテクニックを攻略しなければ当てにもいけない。これはメンタルの問題にもなる。

そのため、前回のDEEPでの試合で、対戦相手の大山選手がボクシングのA級ライセンスの打撃のうまい選手だったので、彼の前に沖縄拳法におけるボクシング攻略法を徹底的に仕込み、クンタップ選手にも備えられるようにした。

結果、大山選手に対し完全に打撃で制圧し、打撃をもらわない状態まで持って行け、完封で勝利できた。

沖縄拳法の技術と理論は、ボクシングをある程度のレベルなら制圧できると言っても過言ではないと思う。

クンタップ選手に拳で打ち込むというのは、そこを超えなければできないことでもあった。

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菊野選手がいつも言う、「何も狙ってない」ということは、私ら指導者が狙っていかなければならないという意味である。選手はこちらが出したプランに対して実行するかどうか、状況次第だ。

だから私は幾つかのプランを立てた。

①打撃をもらわないようにして、こちらの間合いに入れないようにする。そのため、半身を生かし、相手にこちらに踏み込めない距離と錯覚させる。そこでこちらから入る、またはあちらが入ってくる際にテイクダウンに持ちこみ、10秒でパウンドまで持っていき、5秒のパウンド状態で勝ちにいく。

②は①に付随する。組んで首相撲の状態で耐えられたら、テイクダウンできない。その際は自分から倒れこむか、腕をとって腕ひしぎの状態に持っていく。腕が決まらなくても倒すことができるので、マウント状態に持って行ってパウンドに行く(①と同様に)

これらはプランの幾つかに過ぎず、重要なのは「バックアッププランがあるということ」である。

その安心感が、勝負に対する覚悟を強められる。

③三つめのプランは菊野選手自らが前に突き進み、自信を持って打撃を打ち込むということである。

これをベースにしていきたいが、彼がその一歩を踏み出すための練習、一歩が踏み出せなかった時のバックアッププランがあることが重要であった。

①、②の状態はゲームプランであり、実行率は30%以下であろうと踏んでいたので、私は最終調整の際に菊野選手が一番得意なコンビネーションをギリギリ調整期間に拾い上げ、調整する。

おそらく、何も考えずに、または頭が真っ白になっても出てくるだろうと思われる技、「前蹴りからの突き」を練習した。

これは菊野選手が得意な技であり、そこから入るほうが精神的に楽なのだろうと思っている。

最後の最後、こういうやりとりがあった。

菊野「先生、いけると思ったら、そのまま行っていいですか?」

私「いいよ。君がいけると思った時がチャンスだから、そのまま自分のタイミングで行け」

結果、これがプラン③となる。

それが今回の結果、「前蹴りからの右の突き」での「4秒KO」でした。

今回は私も心底成長させられた試合でした。

菊野も自分で語っていたように、魂が削れる日々を過ごしていたことでしょう。

それもありますが、私は彼の奥様始め周りの方々のご協力が、菊野の最後の一言と、最初の前蹴りを生んだのだと本気で思います。そばで見ていた奥様は大変辛かったことでしょう。

彼も成長し、私も成長し、周りのみんなも成長したと思う。

勝負だから、勝つこともあれば負けることもある。

だからこそ、極限に磨かれるし、正直楽しい。

あの4秒には、これだけの思いと厳しさが詰まっていました。

書きながら思い出されるあの過酷な日々に、今回のイベントの大きさを改めて感じました。

長い文読んでくださってありがとうございます。

追記

今回は「沖縄拳法空手VSムエタイ」となってしまい、私は絶対負けられない戦いだと、必死だった。過去、幾多の空手がムエタイ選手と戦い敗れている。それを勝っただけではなく、一撃でKOという、信じがたい勝利を得た。先人達も喜んでいると思う。菊野選手に心から感謝したい。

そして、菊野を支えてくれているファンの方々、カルペディエムの伊藤さん、岩崎さん、世田谷CORE’Sの為谷コーチ、世界一のミット持ち・田野尻さん、横浜スポーツの種市先生、そして私を支えてくれている沖縄拳法のみんなに、心からお礼を申し上げます。

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