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沖縄拳法空手・山城師範手記! 「壁を超えた菊野克紀」

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お題「大反響! 1・3巌流島・舞浜大会を振り返る!」


文◎山城美智(沖縄拳法空手道・代表)

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人は壁を乗り越えた時、一つの真理のカケラを手に入れる。
それは壁を越えようとした人にしか分からないもので、壁を超え続けようとする人しか伝えられないもの。
だから、自分の実力を超える壁を越えようとし続ける人が、最も成長し、強くなる。
菊野はこの一年、自分の壁を、そしてまだ見ぬ自分を求め挑戦し続けた。だからこそ、見えるものがある。

彼は一度何もできずに負けた相手に、もう一度挑むという挑戦をした。
そして、勝利を手に入れた。
しかも全てが作戦通り、最後は一撃必殺という、最高の結果であった。

「神の手」作戦はなぜ「半身」かも、なぜ「ソウザ選手が一撃も自分からパンチを出せなかったか」も、今は誰も分からないだろう。
ちょうど試合後、解説のボクシング元世界王者の内藤大助さんが
「全然わからない」
と言っていたことは、ソウザ選手が
「あれだけの有利な条件を持っていて、ボクシングの技術を駆使してなぜ入っていけなかったのか?」
そのことを指しているのだと思う。

これ等の技術は沖縄拳法の技術体系、稽古体系を最初からやれば、自然と身につくもの。それをほんの少し、ソウザ選手対策用に変えただけ。
柔らかい、そして骨格を使った極めて丁寧な、そして積み重ねられるもの。
突きの威力は重心の移動。足腰からではなく、拳から動くことで生まれる、強烈な打撃力。
そしてそれはもう、菊野にとってはテーブルに置かれたコップを取るように、自然に無意識に行われるもの。
そして正確にKOラインを撃ちぬくための打撃フォーム。ただそれだけで、右でも左でもなくどちらでもいいのだ。
「神の手」作戦も、菊野も最初は、ソウザ選手相手に通じるのか半信半疑だったろうが、試合の最中に気づいたという。
「本当に通じてる。ソウザ選手が全然攻めてこれない」
ただ前に手を出してればいいわけじゃない。
沖縄拳法の基礎稽古を知らなければいけない。
ただ触っていただけではない。
そして前に出した手よりも重要なことは、半身であることだった。さらに半身からの打撃だからこそ、一撃必殺となった。
ナイハンチからセイサンへの変化である。
今回の試合は、「ボクシングの技術」を攻略するために使った沖縄拳法の技術が、そのまま使えて、「攻略」できた証拠となる試合。

私は去年の3月、フリーになった菊野選手とこう話し合った。
「私がこれから教えることを、黙ってついてこれるか?もしそれができなければ、もう私はお前に教えない。」
菊野選手は二つ返事で
「はい、わかりました」
と、言った。
私は「では、スタイルを変えよう。全て少しずつ変化させていく」と、言った。
そこから菊野選手の今のスタイルを作るまでの道のりが始まる。
そして、菊野にはなかなか苦手なもの、その全てを生かすためのトレーニング法、闘いのスタイルに変えていった。
そして、本丸は「ボクシング技術の攻略」である。
なぜなら、この世界の全ての打撃系格闘技と言っていいほど、その技術の根幹はボクシングで作られているからだ。
歴史も紀元前4000年から続く、遠く長く深い歴史である。
そこに挑むのだから、私にとっても大きな挑戦であった。

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私は日頃からこう言っている。
「沖縄拳法は骨董品ではない。生きた伝統だ。伝統とは、最先端である。そして、人生最高の結晶のことである」
私の師の宮里先生がこう語ってくれたことがある。
「空手というのは飾り物のお皿ではない。生きるために使う、食事に使う皿だ。割れたらまた作ればいい。そうすれば、次は良いものが生まれる。飾っていたら、使えるかどうかさえわからない。お前は高価でなくても、見栄えがしなくてもいいから、使える皿を作り続けろ」

私はその言葉に沖縄拳法の真髄を感じた。
ボクシング技術と、長いリーチ、有利な身長を生かした選手を、空手の技術で倒す。
そんな、無謀な挑戦だ。
勝負だから勝ちもあり、負けもある。
でも、決して負けられない試合に挑んだからこそ得られた力である。

菊野自身が手に入れた成りたい自分。
CORE’Sの為谷コーチとのトレーニング技法の相互理解。
短い時間で前回の試合の怪我をケアしてくれた横浜スポーツ接骨院の種市院長。
菊野の強烈な打撃を相手できる、世界一のミット持ち、藤田さん。
菊野の内面を引き出してくれて、菊野自身の不安や葛藤を昇華させてくれたスポーツメンタルコーチングの阿部先生
みんながみんな、自分に挑戦した。
そしてチームで挑戦したからこそ、そこに応えてくれた菊野がいた。

試合会場を後にした時、外の清々しさに驚いた。
そして、こんな素晴らしい会場で試合していたのかと、その時気づいた。

私は試合前の一週間、殆ど眠れなかった。
なぜなら、今回の作戦には自信があったから。
これなら菊野選手を勝たせてあげられると、確信があったからだ。
もう、この手が通じなければ、私は彼を勝たせてあげられなかった。
私にとっても「負けられない」勝負であった。
だからこそ、私自身も不安で潰れそうだった。菊野はこの試合で、大きなものを手に入れた。
成りたい自分になったのだ。
そして私も大きなものを手に入れた。

それはまた次回、菊野によって使われるだろう。多くの方の支えと、沖縄拳法の弟子や会員達の支えのお陰で、こういう素晴らしい結果が得られた。
今は少し休んで、次に向かって突き進もうと菊野に伝えた。
こんな素晴らしく、そして過酷な試合もあるものかと、振り返ると改めて思う。
で、今回も作戦は秘密にさせていただきます。使える時は使いますが、次も前回同様、違う作戦でいきます。

沖縄拳法空手道代表 山城美智