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武道という日本文化の世界拡散考~巌流島!新たなる世界観確立

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10月31日(月)のブロマガ………お題「10.21 巌流島・全アジア武術選手権大会の感想」

文◎田中正志(『週刊ファイト』編集長)

文◎田中正志(『週刊ファイト』編集長)

 

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日本文化、特にエンタメ業界のコンテンツはなかなか世界に広がらないものだ。10月21日、代々木第二体育館で開催された『巌流島 全アジア武術選手権大会2016 in TOKYO』は素晴らしい大会となり、旗揚げ以来の念願だった代々木第二体育館のお客さんを魅了した。あとから映像を見た方々を含めて、格闘技業界の新章幕開けを告げるに足るオリジナルな魅惑を発信。日本発の新ルール武道競技が国際市場に誇る新たな世界観を確立している。

例えばBABYMETALが9月19日、20日と東京ドームを満杯にしたが、業界人から熱心なファンまで、いかに世界中のあらゆる国々からコンサートのために飛来したツワモノが多かったことか。わが国のプロレス格闘技で、このように海外からの密航者の多さが話題になったのは1994年11月20日の『全日本女子プロレス 憧夢超女大戦』まで遡る必要があろう。思い起こせば、山本美憂はここでプロデビューしている。あるいはPRIDE時代、あえて天井桟敷の最後列席を望んだ実業家エド・フィッシュマン御一行が、超満員の会場の熱気に感銘を受けていた姿も目撃したが、のちにそのフィッシュマンとDSEが訴訟になった件は本稿の主旨ではないので割愛する。

ここで大前提として確認したいのは、日本発コンテンツがK-1の世界市場席捲から久しく世界に届いてなかった点だ。特にMMA総合に関しては、UFCが一党独裁の地位に上り詰めて以来、国内の各プロモーションは事実上の二軍リーグに成り下がっており、選手たちも大きな試合に勝ったら「次はUFCに上がりたい」と述べる光景が珍しくなくなった。

ところが、おごれる者は久しからずである。UFCは邦貨にして約4000億円でフェティータ兄弟率いるズッファ社からWME-IMG連合に売却されたが、法外な高値だと冷静な分析をきっちり活字にしたのは週刊ファイトだけだ。また、2000億円のつなぎ融資をしたゴールドマン・サックスに対して、FRB連邦準備銀行がリスク警告書を送るという衝撃かつ最大のニュースを真っ先に報じたのも、情報商材を自認する有料の電子書籍「週刊ファイト」である。大会で誰が勝って負けたのかを報じるのが専門記者の役割ではない。批評精神が欠如して核心に触れない弱腰媒体ばかりが氾濫していることもまた、わが国のマット界が衰退した大きな理由であろう。

新生UFCは、現在大規模なリストラを断行中である。カナダ拠点など8割のスタッフが解雇された。さすがは策士のロレンゾ・フェティータだ。カナダの各界に顔の効く大物らを雇ったのは、最初にニューヨークのエンタメ会社からUFCブランドとビデオ・ライブラリーを安値でラスベガスのズッファ社が仕込んだ時と同じく、カナダでも「野蛮な金網格闘技」が法的に、あるいは現地スポーツ・コミッションと軋轢なく開催されるようになった段階で、そもそも拠点オフィスの役目は終わっていた。マット界伝統のババ抜きゲームを仕掛けたズッファ社は、要らなくなった部門込みでWME-IMGに売り抜けた格好になる。

投資銀行の証券アナリストが懸念表明どころの騒ぎではない、FRB連邦準備銀行が事実上「UFCにそんな高値の価値はない。投資額に見合うリターンの計算が合わず、融資の返済が滞るリスクがある」と断言したのだ。UFCブランドは尻に火が付く断崖絶壁に追い込まれている。

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巌流島は、10・21『巌流島 全アジア武術選手権大会2016 in TOKYO』の成功を受けてようやく本来のスタート地点に立った。「日本の女子プロレスこそ、世界がまだ発見してない優良コンテンツだ」と確信して、大きな渡航費用をかけてもなお、東京に密航して来たというムーブメント成就には早いが、大会名の通りアジアからは選手のみならず熱心なファンも来ていた。いや、東京在住のアジア人とかでも結構なことだ。すべてはそこから始まる。これまで、UFCにもRIZINにも来たことのないお客が巌流島に来て下さる。とんでもなく凄いことなのである。

この見た目からも、明らかにUFCとは別物の武道競技は単純に面白いし、今回は好試合の連続で特に見応えがあった。唯一、日本のファン、特に自称マニア層は保守的な者が多く、いまだ偏見と誤解のまま巌流島を試そうとしない。新日本プロレス木谷高明会長も「ヲタクがジャンルを滅ぼす」と警告するように、巌流島がめちゃくちゃ良いとか話すと、かえって排除の壁を築くような方が多いのが残念でならない。対立概念があった方がという意見もあろうが、見てくれない、買ってくれないじゃ議論にならない。

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日本人アーティストとして前人未踏の記録破り規模のワールドツアーでドル箱を積み上げているBABYMETALだが、なにしろ肝心の国内メタル愛好家の間では、イロモノ扱いされて絶対に認めようとしない組が大勢いる。ピーター・バラカンのような恐竜世代の化石が、「BABYMETALが流行るなんて日本も世も末だ」と発言するのは、本人が終わったことを認めたようなもので放置するだけだが、既得権にしがみつくメタル専門誌Burrn!の無視ぶりや、コアなメタルマニアの反感、反発が無念でならない。なにか、マット界の状況と非常によく似ていると分析するのは筆者だけではないだろう。但し、ジャーナリズムが見えなくなった世界最大の発行部数音楽誌Burrn!が、どんなに増量ページをアピールしようが、意識的なメタルマニアはもはや立ち読みすらしなくなった。

『全日本女子プロレス 憧夢超女大戦』は9時間55分という興行の異常な長さへの大苦言を除けば、日本発の「女子プロレス」という伝統芸能が、輸出可能なキラー・コンテンツであることを世界に発信した記念すべき大会だった。実際、日本にいて、権威と思われている専門誌だけ読んでいたら、なにも新たな革命の進展に気付かないことが多い。海外の論客が「豊田真奈美は女神だ」と書き出してからの驚異的な拡散を、筆者は当時暮らしていたニューヨークで体感している。例えば、ECWアリーナに行けば、財布に豊田真奈美の写真を入れてる奴とか、日本マニアになった連中がうじゃうじゃいた。ガイジンが騒ぎだして、目の前に宝物があったことにかえって気付かされ、国内の先端層も魅力のとりこになっていく案配だった。

ロック音楽趣味にしても良く似ている。どうしても欧米信仰があって、日本のバンドにも素晴らしいのがたくさんあるのに、ちゃんと買おうとしない。「スコーピオンズはドイツ野郎であって、米英のグループではない」と諭しても、ガイジン・アーティストのCDは買うのに日本のには抵抗あると言われた70年代後半から今もあまり変わってない。頑固者だけが威張ってる保全市場なのが情けない。BABYMETALの♪ギミチョコ!!は本稿執筆時点でYouTube再生回数が61,477,154 回になり、おかげで日本産メタル全体の認知度が急激に向上、大きな発見評価の動きが全世界で巻き起こっていることをご存じだろうか。特に日本の伝統芸のひとつでもあるガールズバンドの実力が、イスラム教の国々から北欧諸国まで、さまざまな場所で話題にされ始めたのが2016年である。

BABYMETALは紅白歌合戦出場から、来年はグラミー賞受賞(当確か?)、さらにはレディー・ガガと一緒に『スーパーボウル』のハーフタイムショー出演の噂も出た。亡くなったプリンスが、マジに雨のなか♪パープル・レインを唄い踊った回もあった、北米では最高金額のCM広告料が徴収されるお化け番組である。ショー担当はUFCを買収したWME-IMGというのがこのネタのオチだ。

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10・21巌流島の神風が吹いたとしか思えないトーナメント決勝戦は、アジアの強豪たちを一撃で仕留めてきた菊野克紀vs.小見川道大の理想のカードが実現した。これぞ沖縄拳法空手対NEO柔道の対決は、小見川が鮮やかな巴投げで菊野をドライアイスの海へ突き落とすなど、見ごたえ十分の展開になる。これこそがUFCには出来ない巌流島ならではの格闘絵巻だった。UFCでも金網をステップに使っての三角蹴りが鮮やかに決まったことはあったが、柔道技がカッコよく極まり、お客さんが興奮する様子に痺れないわけがない。最後は菊野の前蹴り(本人談、公式では三日月蹴り)があばらに命中。うずくまった小見川を菊野が場外に押し出す格好で左のパウンドを見舞い、レフェリーが試合を止めた。

セミファイナルでは、イタリアの英雄ミケーレ・ベルギネリが、カポエイラの使い手、ブラジルのマーカス・レロ・アウレリオの後ろ回し蹴りをかわし、マウントポジションに持ち込むなど、このルール2戦目にして格段の進歩と適応力を見せて判定で勝利した。試合後コメントによると、この喧嘩フットボールのエース・アタッカーは事前に相手をよく研究していた。マーカスの足技が左を武器にしていることを見抜き、対策を立てていたから寝技になってもひっくり返す技術を披露していた。刺青に娘の顔を入れた伊達男パパは、スタミナも十分で接戦をものにしている。

今からでも遅くはない。巌流島に乗り遅れたら問われるのは貴方の格闘技好きの肩書になろう。

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週刊ファイト10月27日号馬場元子新潟木谷虎W神取祭TNA破産Rボック秘話DEEP金網UFC涙

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