GANRYUJIMA BLOG巌流島ブログ

なぜ菊野克紀や小見川道大は、私にお礼を言うのか!?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

10月25日(火)のブロマガ………お題「10.21 巌流島・全アジア武術選手権大会の感想」

文◎谷川貞治(巌流島イベントプロデューサー)

文◎谷川貞治(巌流島イベントプロデューサー)

 

10.21巌流島・全アジア武術選手権大会のご観戦、並びにCS放送「フジテレビONE」での生中継をご視聴いただき、誠にありがとうございました。改めまして、心より御礼申し上げます。

いやぁ、本当に漫画のようなトーナメントの展開と、漫画のような試合内容に、皆さんからも、とてもいい反応をいただき「巌流島を始めて良かったなぁ」とつくづく感じております。もちろん、批判めいたご意見もありますが、私が『格闘技通信』時代に煽ったUFCに比べると、むしろ怖いくらいに反応がいい。あの当時は他の格闘技マスコミでさえ、グレイシー柔術が提唱した「なんでも有り」には、レベルが低いとか、野蛮とか、ボロクソでしたからね。私はそんな時代に、批判は物ともせずに絶対に「なんでも有り」の時代が来ると、猛烈にUFCとグレイシー柔術をプッシュしました。それが今や競技として確立したMMAです。歴史は繰り返すもので、今やそんなMMA派から今度は巌流島の新コンセプトが批判を受けているようですが、それもまたいい対立概念になるとさえ思っています。

img_1049

さて10・21全アジア武術選手権大会については、私自身、語りたいことはたくさんあります。その中で今回は、「なぜ菊野克紀や小見川道大は私に感謝するのか?」について考えてみたいと思います。

礼儀として主催者にお礼の挨拶をしてくる選手はたくさんいます。しかし、菊野選手や小見川選手は、FacebookやTwitterにわざわざ書いたりしている。お礼というのは控室ですれば十分。なのになぜ彼らはそれを書いてしまうのかという気持ちを、私なりに考えてみました。田村潔司選手や渡辺一久選手、瀬戸信介選手なんかもそうですよね。

これは私の人柄がいいからとか、主催者としての対応がいいからとか、ファイトマネーがめちゃくちゃいいかとか、そういうわけではありません。むしろ、巌流島はスタッフも少ないし、まだまだ選手に十分な対価を還元できるような団体ではありません。でも、出ていただいた選手は、みんな嬉しそうです。だったら、私のプロデュース能力がいいから?  もちろんそういうことでもありません。

その秘密は、私は「巌流島」にあると思うのです。

今回、一番分かりやすいのは小見川選手です。小見川選手は柔道では、オリンピックに出るか出ないかを争うほどの実力者です。そんな小見川選手は、おそらく自分の柔道がどこまで他流試合で通用するか?  それを求めてMMAに挑戦してきたはずです。吉田秀彦選手なんか、まさにそんなタイプでした。

しかし、現実は柔道をやっていたことはMMAにとって重要な要素ですが、実はあまり関係のないことでもあるのです。これはどういうことかと言うと、MMAはある時期から競技化に突っ走っていきました。そうなると、MMAで強くなるには、MMAで勝つための練習とMMAで強くなるための技術が必要になっていきます。誤解を恐れずに言うと、柔道からMMAに転向するよりも、最初からMMAの練習をしてきた選手の方が強くなるかもしれないし、柔道のクセが邪魔になることも多い。つまり、柔道の技自体、MMAであまり活かせないことが多いのです。

これは素手で顔面なしの極真ルールになれた選手が、K-1で苦戦したり、なかなか間合いやガードなどのクセが直らなかったりする例と同じです。K-1も最初はKのつく空手やキックの他流試合がコンセプトでしたが、競技化することによって、みんなK-1ファイターになり、空手家とか、キックボクサーではなく、K-1ファイターが一番強くなっていきました。今のMMAは、柔道家や柔術家ではなく、総合格闘家が強いのであって、UFCファイターやPRIDEファイターと言われた瞬間、バックボーンの格闘技は意味を持たなくなりました。

しかし、巌流島は「公平な異種格闘技戦」がコンセプト。ストライカーだけでなく、相撲や柔道家も生きるルールを目指しているし、ルールはあるものの、常に武術や実戦を想定しているため、競技第一主義ではありません。レスリング選手や力士は押し出しで勝てばいいし、柔道家は投げで勝てばいい。もちろん打撃系の選手は打撃で勝てばいいし、喧嘩フットボールのミケーレ・ベルギネリなんて、喧嘩や逮捕術の常套手段ニー・オン・ザ・ベリー(寝技で相手を片ヒザで抑えつける)でカポエイラに勝っていましたからね。しかも、巌流島は初期の段階なので、必勝パターンはほとんど分かっていない。だから、各武術、自分たちの技が試せるのです。

MMA、特にグレイシーの究極の必勝パターンは、相手の光を消すことにあります。打撃系の選手には、打撃をさせずに寝かして締める!  しかし、巌流島は自分の技だけでなく、相手の技も光せることができる。菊野克紀vs小見川道大の決勝戦なんて、まさにお互いを光らせる典型的な展開となりました。おそらく、小見川選手も菊野選手も、巌流島に来て初めて、柔道の技や空手の技が活かせられたんじゃないかと思うんです。

7w1a4296

「オレはこういうことがやりたかったんだよなぁ」

「オレはこんな風に柔道の技で勝ちたかった」

「オレはこんな風に一撃で相手を倒したかった」

「こういう他流試合をやりたくてプロに来たんだよなぁ」

そういう思いがあるから嬉しそうだし、その心理状態が自然とお礼に繋がるんじゃないかと思うのです。不思議なことにトーナメント8戦中、MMA経験者は菊野克紀、小見川道大、モンゴルの3人。しかし、菊野選手と小見川選手は、MMAの闘いではなく、一番武術っぽい闘いを貫いていました。逆に今回参加した外国人選手の中には、巌流島をMMAと勘違いした選手も何人かいて、菊野vs小見川戦を見て「もっと自分のバックボーンの技で攻めればよかった」と反省していたほどです。

もはやMMAはMMAファイターに任せるべき。各ジャンルの大物が他流試合の場として、MMAは不向きな舞台になっています。MMAファイターになりたい選手は、MMAに行けばいいし、MMAファイターになって、やっと勝つことができる。しかし、MMAファイターに興味はないけど、他流試合には興味があるという選手は、巌流島に上がってくるような気がします。

つまり、菊野選手や小見川選手の私に対するお礼は、「オレはこういう異種格闘技戦で自分の技を試したかったんだ!」という気持ちの表れなのです。あの嬉しそうな笑顔には、そういう秘密が隠されていたんです。

巌流島は武術たちにとって、気持ちのいい異種格闘技戦の場ですよ。