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武道家・菊野がUFCファイターを一撃KO! プロローグを終えた巌流島は真のスタートを切る!

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お題………「大反響!1・3巌流島・舞浜大会を振り返る!」

 

文◎柴田和則(巌流島・事務局 海外選手ブッキング担当)

文◎柴田和則(巌流島・事務局 海外選手ブッキング担当)

 

改めて、1.3巌流島の『菊野 vs ソウザ』は賭けであった。大会前から言っていたことだが、あそこで菊野選手が惨敗でソウザに2連敗していたら、どんな言い訳をすればよかったのか。結局、UFC(MMA)のときと何も変わらないじゃないか。MMAが最高じゃないか。巌流島もしょせん、その下位カーストのひとつじゃないか。そんな話で結論づけられてしまう。巌流島の存在意義そのものが全否定されてしまう。2015年にスタートした巌流島が、早くもその役割を終えることになるわけだ。

しかし、実際には真逆の結果になった。UFC 3勝1敗のケビン・ソウザが、菊野克紀に1分59秒で失神KOされてしまった。正直な話、戦前、関係者の間では「ちょっとソウザには勝てないだろう。でも、やることに意味があるじゃないか」という空気があったように思う。口に出したら言霊になってしまうので言いはしないが、でもそんな空気感があった。

1.3の大会直前にターザン山本氏と電話で話したときにも、ターザン御大は「ソウザの写真も映像も見たけど、あれは凄すぎるよ。申し訳ないけど、菊野さんは勝てないよ。菊野さんはというか、あれに勝てる日本人はいない。でも、いいじゃない。巌流島の武道の本質は、勝ち負けを超越したところにあるんだから」と話していた。

では、なぜ、巌流島の運営サイドはわざわざそんなリスクの高い試合を組むことになったのか。外国人選手ブッキング担当の僕の立場から、経緯を振り返ってみたいと思う。

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まず、正月に「日本vs世界」の団体戦をやると決まったときに、大将が菊野克紀というのは揺るぎない基本設定であった。昨年、ムエタイのクンタップを秒殺し、さらにアジア武術トーナメントを制していた菊野以外に、現在の巌流島の大将を務められる選手はいない。菊野選手がいなければ企画自体が成立しない。逆に言えば、そこに運営側にとっての不安があった。

にわかに日本格闘技界が盛り上がり始め、格闘家の活躍の場は増えているといわれる。そこで正月1.3に興行を行う巌流島としては、何としても大将の菊野克紀に巌流島だけを見てもらい、巌流島だけに没頭させたい。巌流島のマッチメイカーの谷川貞治は、常にどの組み合せがベストで、どんな化学変化を引き起こすかを考えてカードを決めているが、今回は特に気を遣ったはずだ。大将として必要不可欠な菊野が、巌流島一本で他は目にも入らないというくらいのカードを、我々は提示しなくてはいけない。

菊野選手と会って話をした谷川が、最初に僕に伝えてきたのは、菊野選手とある有名な欧州のMMAファイターを対戦させたいというものだった。実績十分すぎるレジェンドファイターである。この選手は、以前に巌流島参戦が決まりかけたことがあり、話はスムーズだろうということで、すぐにオファーをかけた。しかし、残念ながら、この選手がケガにより闘えないと分かり、我々の計画は暗礁に乗り上げた。さて、このアイデア以外に、菊野選手を1.3巌流島に夢中にさせられるカードはあるだろうか?

どうしようかということで、谷川と一緒にあれやこれや考えた。谷川と菊野選手の話を伝え聞くかぎりでは、「対MMA」がテーマになっている様子だった。菊野選手は10.21アジア武術トーナメントを制する偉業を成し遂げていた。しかし、一部では「弱いやつらを集めて勝って、喜んでいるだけ」という声が聞かれた。非常にナンセンスな批評だと思うが、一方で、菊野選手のなかにも「MMAで勝てず逃げてきた」というコンプレックスがあるのかなと僕は想像した。一度、そこにけじめをつけたがっているのではないかと。これはあくまで僕の想像なので、当時の菊野選手の心中に何があったかは分からないが。

そこで、だったらUFCで苦汁を舐めた相手へのリベンジであれば、菊野選手はモチベーションを上げ、全身全霊をかけて闘うのではないか、ということになった。リサーチしてみると、菊野選手がUFCで敗退した選手のうち、2人が現在UFCを離れている。ひとりは薬物問題でリリースされたとのことだったので除外。もうひとりは悪い噂もなく、しかも3勝1敗というほぼ無傷のままでUFCを離脱している。それが2015年3月に菊野選手を1R KOしているケビン・ソウザだった。谷川が菊野選手にソウザ戦を確認したところ、「ぜひ、やらせていただきたい!」とのことだった。

菊野さん本人に確認したはいいが、ソウザを巌流島に引っぱり出せるかどうかはまったく何の確信もない。北米MMAで活躍している選手が、巌流島という世界的にはまだまだマイナーなイベントに興味を持つかはまったく未知数。むしろ興味を示さない可能性のほうが高い。また、ソウザに接近するため、どこかのコネに頼るのは、しがらみがやっかいだからやめようということになった。

そこでどうしたかというと、ソウザのFacebookアカウントを見つけて、僕から直接ダイレクトメッセージを送りつけた。巌流島では、いつもやっている手法だ。それで相手がまったく興味がないと言ったら、こればっかりは仕方がない。可能な限り、相手の興味をそそる文面にしてオファーをかけてみた。

どんな反応があるかは、まったく見当がつかなかった。と、24時間を超える前に、ソウザ本人より「菊野選手から再戦のオファーをもらえるなんて光栄だ。大会自体もすごく面白そう。ぜひ参戦したい」とメッセージが返ってきた。よし、来た! 自分でも“マジか!?”という気持ち。後で本人に聞いた話によると、2015年に巌流島に参戦したJZ・カルバンがソウザの練習仲間で、カルバンを通して「日本に巌流島というおもしろい格闘技イベントがある」と聞いていたようだ。もとより日本格闘技界に興味があったというソウザは「やった! 日本で闘える!」と歓喜の気持ちになったのだという。

対戦に合意してからは、条件の詰めで、あれこれやり取りがあったが、お互いがお互いを求めている相思相愛の状態だったので、基本的にはスムーズに話が進んでいった。こちらの願いどおりに話が進み、もちろん菊野選手はやる気まんまん。試合結果はどうなるか分からないが、正月の初詣よろしく、神頼みに近い状態で、巌流島のエース菊野にすべてを託すことになった。

いち選手としての責任のみならず、巌流島の未来まで勝手に背負いこまされた菊野選手のプレッシャーたるや想像を絶するものがあったと思う。普段から自分を“ビビリ”だと言っている菊野選手は、一体どうこの強大なプレッシャーに向き合っていたのか。菊野選手にしても、巌流島にしても、なぜお祭りムードの正月興行でこんなしんどい勝負に出るのか。それもすべて運命的な巡り合わせなのだろうということで、我々はイベント運営に邁進した。

サムネ

そして物語は、冒頭の結末につながる。菊野選手と我々の心意気を神様が認めてくれたのか、菊野選手が“神の手”でまさかの一撃KO勝利。ソウザの体がガクンと力が抜けるように倒れたときには、あまりのことに何が起きているのか理解できなかった。UFC・MMAとまったく真逆の結果がそこにあった。それは巌流島と、大げさに言えば日本を救う一撃だった。

これによってファン、選手、運営のすべての人間が、「武道」や「日本」「東洋」といったキーワードで、もっともっと議論をして、語り合い、検証し、幻想を探求していくことができるようになった。すべての終わりにさえなりえた一戦が、すべての始まりになってくれたのだ。

「菊野 vs ソウザ」は、プロローグを終えた巌流島の真の始まりになる。巌流島とは何か? 武道とは何か? 巌流島の本当のお楽しみはここからだ。