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巌流島に即した打撃技を披露した町田光! 誰も知らなかったもう一つの打撃技とは?

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お題「大反響! 1・3巌流島・舞浜大会を振り返る!」

 

文◎山田英司(『BUDO-RA BOOKS』編集長)

文◎山田英司(『BUDO-RA BOOKS』編集長)

 

今回の巌流島で観客に大きなインパクトを与えたのは、メインの菊野選手の鮮やかなKO劇だろう。伸びる左正拳から右のショートの返しで、相手のソウザ選手を失神させた。まさに一撃必殺。我々のイメージする強烈な打撃技そのものである。この菊野選手の鮮やかなKO劇については、恐らく他の人も書くだろうから、ここでは敢えて触れず、もう一人の見事な打撃名人について触れよう。

それは町田光選手である。

実は、打撃技というものを多くの人が誤解している。今では、素人の人でも、顔面パンチでKOするには、アゴを撃ち抜き、脳を揺らす必要がある、と語る。しかし、これは正確に言うと顔面パンチ全体の理論ではなく、ボクシングのKO理論だ。むろん、グローブを着けて闘うムエタイのパンチも、このKO理論があてはまる。

要はグローブという手の保護具があり、掴みもプッシュも禁止された限定の闘いにおいては、グローブの重さを活かし、瞬発的な打撃で脳を揺らす方法が一番効率的である、と言うことだ。

ムエタイとほぼ同じを動きを基本にしているが、グローブ無しのバンテージの拳で打ちあうのがミャンマーラウェイだ。ラウェイでは、拳自体の重さが、グローブ着用時より軽く、かつしっかりと握らないと自分の手を痛める。するとボクシングのような瞬発力を生かしたパンチが打ちにくい。不可能ではないが、それを目指すにはボクシング以上に高度な技術が要求され、現実的ではない。

そこで、彼らのパンチは手首から先を固めたままで出すプッシュ気味の打撃技になる。

先日、日本でも本格的なラウェイが紹介されたが、見た人の感想に、顔面有りの極真みたい、というものがあった。

あながちこの見方は外れていない。極真ルールは素手で打ちあうため、手首から先を固めてボクシングと比べてどうしてもプッシュ気味になる。昔は互いにパンチで押し合う試合模様に対し、相撲空手などと揶揄されたものだ。

ボクシングのパンチテクニックと比べると、どうしてもラウェイや極真のパンチは稚拙に見える。しかし、プッシュ気味のパンチは果たして本当に稚拙なものなのだろうか?

プッシュ技がいかに町の喧嘩で有効か、という事を初めて唱えたのは、喧嘩術の林悦道先生である。自分の置かれた環境の武器化を第一に考える喧嘩術では、相手の身体を後ろの壁にぶつけたり、床に叩きつけたりする。相手の脳を揺らすより、相手の頭自体を壁や床に叩きつけた方がはるかに確実に相手にダメージを与え、KOしやすいからだ。

だから、喧嘩術では、顔面は掌底でプッシュし、蹴りはいわゆるヤクザキックのように押すように蹴る。巌流島でも、林先生の喧嘩術の演武を行なったが、打撃の専門家からは、林先生の打撃は素人のそれに見えたはずだ。

環境の武器化を目指す喧嘩術の打撃は、素人のようにプッシュする打撃でなくてはならない。林先生は、もう一つの打撃理論の達人だったのだが、ボクシング的な瞬発型の打撃しか知らない人には、その実戦性は見えてこないだろう。

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そして巌流島である。巌流島はボクシングやキックのように、環境の利用が出来ない中での闘いではない。背後に壁はないが、押し出しはポイントになる。現実世界の環境ほど武器化は出来ないが、ボクシングやキック以上、相撲以下の武器化は可能だ。相撲は土俵に出た時点、土俵に身体がついた時点で無条件で敗北となる。巌流島以上に環境の武器化に即したルールだが、そこで一番有効な技は押し出し。プッシュである。張り手でKOすることも反則ではないが、張り手によるKO決着の頻度は極めて低い。

巌流島も環境の武器化が選手に浸透してくれば、やがてプッシュ的打撃を武器とする選手が現れてくるだろう、と予想を立てていた。その最初の選手がキックの町田光選手だったのだ。

町田選手はキックでも瞬発系の打撃を使いこなす、いわゆるキレのあるタイプではない。手数とスタミナで相手を押すファイタータイプである。キレのない打撃はキックではマイナスポイントとなるが、巌流島ではその打撃がプラスポイントとなるシーンがある。

町田選手は、コシティのカトカデ選手を競技場間際まで打撃で追い詰めると、身体ごと押しこむプッシュ気味のヒザをボディに効果的に入れていた。これは明らかに場外を狙った攻めだろう。そして喧嘩術のような押し気味の前蹴りでカトカデ選手を場外に押し出した。プッシュ気味の打撃をこれほど効果的に使う初めての打撃系選手である。

実は試合場間際で相手を押し出す技術は極真のようなフルコンタクト系の空手が最も発達しているのだが、選手の多くはその実戦性を認識しているわけではないだろう。

恐らく今後、巌流島で発達すると思われる打撃はこのプッシュ系の打撃である。それまで稚拙な技術として見られがちだった打撃技術が、再認識される時代もそう遠くない気がする。

その最初の打撃の使い手として、町田光選手の名は長くファンに記憶されるのではないだろうか。