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マッチメイク難航! トラブル勃発! 裏方から見た7.31巌流島

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8月12日(金)のブロマガ………お題「7.31巌流島・有明大会の感想」

文◎柴田和則(巌流島・事務局 海外選手ブッキング担当)

文◎柴田和則(巌流島・事務局 海外選手ブッキング担当)

 

こんにちは、巌流島・海外ブッキング担当の柴田です。いやぁ、今大会もハプニングやサプライズなど色々ありました。もちろん、それらに対応するのが我々の仕事であり、また醍醐味なのですがね……。

今回はカード発表第一弾で5試合を発表しました。すんなりと大部分のカードが決まり、今回はスムーズにいくと思いましたが、残りのマッチメイクが難航。

さらに、そのすんなりと決まったはずの第一弾カードで、トゥントゥンミンの相手だったカポエイラ選手が欠場。当初はすぐに代わりを見つけたらいいやと簡単に考えていましたが、これがまさかの二転三転、いや、八転九転する迷走状態になってしまいました。

我々主催者サイドもトゥントゥンミンの関係者も、このミャンマーの英雄に最高の舞台を!と、今思えば“考え過ぎ”てしまい、逆に迷走モードになり、結局直前でボビー・オロゴン軍団のアフリカ戦士との対戦が決定。しかも、この急ごしらえの選手に英雄トゥントゥンミンが1ラウンドKO負けするという、なんだかなぁ〜な結末になりました。

こちらの迷いに振り回され、悪い流れに引きずりこまれたトゥントゥンミンは、それもあって良い結果にならなかった気さえします。そういう意味では、彼に対して非常に申し訳ない思いがあり、試合後はなんとも複雑な気持ちになりました。

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一方、そんなトゥントゥンミンびいきの空気を感じてか、勝利したアフリカ軍団の総帥ボビーさんは、控え室でも興奮がおさまらず、「どうせ勝てないと思ってたんでしょ? 見たか、ダニ川〜!」と応援団たちとお祭り騒ぎしていました。まぁ、アフリカ軍団は良くも悪くも毎度、嵐を呼びますね(笑)。

ちなみにトゥントゥンミンの相手には、PRIDEやDREAMで活躍していた某レジェンド外国人選手も候補にあがり、交渉の末、決定寸前までいったのですが、急なオファーだったこともあり、最終的に「いま自分で家を建ててるから、やっぱり今回は無理だなぁ」とお断りされて、話がなくなってしまいました。これが実現していたら、格闘技ファン垂涎のカードになっていたはず。いずれにせよ、この選手は巌流島参戦に乗り気なので、ぜひ今後の大会にご登場いただければと思っています。引っぱり出してみせますとも。

なかなか決まらずにいた田村さんの試合も「猪木アリ、40年目の再検証」というテーマのあるカードを組むことができ、一安心となりました。ただ、この“猪木アリ戦ルール”という特種かつ実に日本的な試合の趣旨を、外国人ボクサーが真の意味で理解してしてくれるか? 欧米のボクサーにオファーしたら、ルールや試合の意味を理解できず、「なんでこんなジョークみたいな試合をしなきゃならないんだ?」と至極まっとうで合理的な反応を示す姿が容易に想像できました。

時間もない状況で、そこから始めている猶予はない。日本のマット界を熟知している人間が相手でなくてはいけません。そこで白羽の矢が立ったのが、K-1のスター、マイク・ベルナルドを育てた名伯楽スティーブ・カラコダでした。事実、カラコダさんはすぐにこちらの意図を理解し、「何がやりたいんだ、コラ?」的な問答はほぼゼロと言っていいくらいなく、あうんの呼吸でこの件を進めてくれました。

カラコダさんからの推薦選手にはK-1で活躍した元IBF王者のフランソワ・ボタやヤン”ザ・ジャイアント”ノルキヤも含まれていました。結果的には、現役バリバリで最も危険なエルヴィス・モヨが選ばれ、試合では最高のパフォーマンスを見せてくれました。試合はもちろん、会見等でのコメントや立ち振る舞いなど、こちらの予想を超えるいい選手だったモヨ。この選手は、ぜひまた巌流島で見てみたいものです。

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あ、ちなみにカラコダさんからの触れ込みでは、ノルキヤ選手は現在、ボクシングのWBCアフリカ王者だということでした。この“アフリカ”という規格、果たしてすごいのか、なんなのか計りかねるところがあります。まぁ、とにかくアフリカは面白いですねぇ。なんというか、色んな意味で規格外ですよ(笑)。

大会直前のトラブルでいうと、「ボルドバートルvsミシェル・ベルギネリ」での体重問題という、まさかの事件がありました。83kg契約だったこの試合。計量では、まずベルギネリが82.7kgで無事クリア。そして次に体重計に乗ったボルドバートルの体重は88.8kg……。文字どおり、周りにいたみんなの目がテン。その場の時間が一瞬止まりました。

減量に失敗し、1〜2kgの誤差が出るのは、しばしばあると思いますが、さすがに約6kgオーバーとなると何が起きているのか理解できませんでした。一瞬の静寂のあと、騒然とする会場。ベルギネリのチームメイトたちはもちろん猛然と抗議を始めます。それに対して、どうも事態を把握していない様子のボルドバートル陣営。私はその様子を見て、頭を抱えます。なんでこうなるんだよ……。

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抗議を受ける側のモンゴル側は「なんのことだ?」という様子。対するイタリアチームはかなり苛立っています。イタリア側からはこんな証言を得ました。「朝、ホテルでボルドバートルが朝食をモリモリと食べてるからおかしいと思ったんだ。約束を守らないとはどういう了見だ!」。いったいどういうことでしょう?

選手たちの名誉のために言っておきますが、これは運営側のミスです。ベルギネリはきちんと契約体重を守りました。そしてボルドバートルに関しては、複数の人間から連絡がいき、伝言ゲームの流れの中で「85kg契約だ」となり、それがさらになぜか「85kg以上」という形で伝わってしまったようなのです(モンゴル側の担当は私ではありませんよ)。

つまり、ボルドバートルに悪気など一切なく、“85kg以上”というので、むしろ朝食もムシャムシャ食べて増量に勤しんでいたというわけです。イタリア側はワーワー言ってくるし、モンゴル側は非難される覚えはないと言ってくるしで、私はまさに板挟み状態。腹が立つやら何やら、しかし重要なのはこの試合を成立させること。イタリア喧嘩サッカーの日本初上陸は、注目カードの一つなわけですし。

そこで、ボルドバートルに当日中に可能なかぎり減量してもらうということで、イタリア側を納得させ、午後からサウナに向かい、水抜きをしてもらいました。基本、無差別級のモンゴル相撲には減量の概念がないということで、戸惑っていたボルドバートルですが、こちらの不手際にも激高することもなく、終始冷静で淡々と応じていたのが印象的です。サウナに閉じこもり、85kgまで落としたところでイタリア側に納得してもらい、無事にこの試合は成立しました。

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イタリア側もセコンドは騒いでいましたが、ベルギネリは冷静な様子でした。まさにローマ帝国とモンゴル帝国の“男”の対決を見たように思います。試合はボルドバートルがKOで勝利。大会後、会場を出ようとするボルドバートルを見つけ、謝意をこめて握手をすると、こちらの目を見ながら、私の肩を一度強く叩き、ひと言も発することなく颯爽と去っていったのでした。いやぁ、モンゴル人は男ですねぇ。星風が暴れん坊タイプのモンゴル人だとしたら、ボルドバートルは、かの大地のように優しく強いモンゴル人。モンゴルの雄大な誇りを見た気がしました。

こういった選手が英雄として現地に凱旋し、お国の方々が熱狂的に、かつ継続して、巌流島を応援してくれるようになってくれたら嬉しいです。各国の代表選手が母国のスターとなり、世界各地のファンを引き連れて、また巌流島に戻ってくる。そんな理想的な循環が出来上がり、巌流島が世界中で知られる「武道エンターテイメント」として確立されてほしい。

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今回もベルギネリやトゥントゥンミンの参戦により、現地イタリアやミャンマーの方々からSNS等で大きな反響がありました。それぞれの格闘技の伝統性や土俗性、つまり“アイデンティティー”を大切にしている巌流島だけに、選手の母国の方々からは、我がことのように熱をこめて応援している様子が伝わってきます。

巌流島が持つ武道とグローバリズムのテーマは、日本はもちろん世界中に届けるべき価値のあるものだと思っています。その夢の実現のために、これからも精進していきたいです。