GANRYUJIMA BLOG巌流島ブログ

「常在戦場!」前日突如ルール変更となった裏舞台と、プロレスという流派の優勝について

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お題………賛否両論! 全日本武術選手権。刃牙の世界は実現できるか?

文◎関根シュレック秀樹(柔術)

文◎関根シュレック秀樹(柔術)

 

こんばんは。関根SHREK秀樹です。敗者に口なし。本来ならば本大会について語る口など持っていないが、愛すべき巌流島運営陣から「鈴川戦について」と「トーナメントについて競技者目線からの考察」の執筆を依頼されたので少しだけお話しさせていただく。

それでは先ず鈴川戦について。 巌流島ファンならばご存じのとおりルールは前日記者会見前に変わった。

大会前日、昼から始まったルールミーティング中、俺はこっそりとWOWOWオンラインでゴロフキンvsカネロを視聴していた。先生の目を盗んで、漫画読んだり弁当食ったりしていた高校の授業中を思い出して、その背徳感にちょっと興奮した。

ルールミーティングが終わりしばらく経ったころ谷川さんが血相を変えてやってきた。「やばいッッ! ボクシング観てたのがばれた」と身構える45歳おっさん。

しかし谷川さんは来るなり「申し訳ない」と平謝りするので、俺は極めて平静を装いながら「どうしました?」と尋ねた。

谷川さんは「担当者が鈴川選手側に寝技30秒ルールをきちんと伝えていなかったようだ」「あちら側が寝技30秒ルールを聞いていないと言っている。道着着て寝技無しにするか裸で寝技30秒ならばやると言っている。どうにかならない?」とのこと。

ボクシングの件じゃないことにホッとしたのもつかの間、これは大変なことになってしまったと気分が重くなった。こちらとしても試合まで「道着有り寝技有り」を想定した稽古しかしていないし、打撃もあんまりやってない。どうすりゃいいんだ?

そもそも「ブラジリアン柔術と柔道がバックボーン」の俺が、巌流島で寝技無しの試合をする意味がない。裸でやるとしても俺が「立ち続けることが生業の大相撲」を道着なしでテイクダウンできるのか。どちらにしても積んできた稽古の殆どが活かしづらくなるだろう。

プロとしては、最初の契約通りのルールを主張するのが正解かもしれない。しかし鈴川選手側から考えたらどうだろうか。彼らからしても寝技無しのつもりで稽古を積んできたはずだ。今更グランド30秒と言われても困るよな。彼だってプロだ。納得いかないルールで負けてもプロ格闘家としての商品が傷ついてしまう。俺は悩んだ。久しぶりに悩んだ。警察を辞職する時も全く悩まなかった俺なのに。

記者会見まで時間もない。俺はさっきまで能天気にボクシングを観ていた俺を呪った。この世は日々戦場なのだ。警察署の講堂に掲げられていた言葉を思い出す。「常在戦場」。男子たるもの家を一歩出たら油断してはいけないのだ・・・・

寝技道着有り30秒ルールを通せば鈴川選手が圧倒的に不利。逆に鈴川選手側が提案してきたルールを呑めば俺が不利だ。悩んでも時間は過ぎていく。記者会見は直ぐだ。

悩みに悩んだ末、答えが出た。どんなルールでもどちらかが不利になる。だったらファンの気持ちを考えようじゃないかと。

鈴川選手は元大相撲幕内力士。その本物の力士が巌流島で戦うのだ。力士はマワシ姿がいいに決まっている。俺はブラジリアン柔術の選手だ。柔術着の方が異種格闘技戦ぽい。そしてファッション的にも当然毎日使う柔術着の方が着こなせているはず。

闘技場でマワシ姿の鈴川真一と柔術着の関根シュレックが対峙する。 俺だって鈴川真一のマワシ姿にワクワクするんだから、お客さんだってワクワクするに決まっている。 迷ったらワクワクする方を選べ。 俺はこの言葉を実践するようになって後悔したことなど一度もない。

ということで、宮戸先生と鈴川選手立会いの下、ルールはお互いのバックボーンであるマワシvs柔術着、寝技30秒ということになったのである。鈴川選手も最初マワシに難色を示したものの「ファンのため」という言葉を聞いた瞬間快諾してくれた。漢だぜ。

サムネ

そして試合結果はご存じのとおり、相撲のお家芸である押し出しを活かした鈴川選手が判定勝ち。

俺側からの作戦と試合内容を簡単に説明すると、1ラウンドは立ち技勝負。隙あれば掟破りの押し出しをしてみたかったが、逆に押し出された。当たり前である(笑) 。

2ラウンドからはテイクダウンも狙ったが流石倒れないプロ力士。今成ロールなどで引き込みも狙ったが不発。そのまま時間切れ。

やっていて一番誤算だったのはマワシ。マワシは硬い! 立ちでもグランドでもマワシに手がかかることがあったが、想像よりもマワシは硬くて指がマワシの中に入らなかった。

やっとマワシに手がかかっても、腰を少し振られると簡単に切られてしまう。 俺のマワシを掴む技術の拙さもあるだろうが、鈴川選手のマワシを切る技術も巧みだったのだろう。

おかげで投げも下からのデラヒーバも不発だった。打撃面では俺もけっこういいフックを何発か当てていたはずだけど、鈴川選手は倒れなかったね。タフ。 あと、まさかのハイキック!! できんのかよ、聞いてねーぞ(笑) 。

試合が終わってから色んな人から「道着対裸は不利」とか言われたけどそれは仕方ないこと。そのルールを受けたからにはお互い同条件。俺の完敗。とにかく俺は鈴川真一という男のマワシ姿を見たかったわけだし、この勝負、俺にそう思わせた鈴川真一の男ぶりの勝ちなのだ。

彼は今まで逆境を全て男らしく真正面から受け止め乗り越えてきた。 そういうところも含めて俺は彼のことが好きだし、男として尊敬している。男ぶりでも完敗。彼のような気持のいい男と闘えて本当に良かった。

トーナメントについて

トーナメントは、一回戦の各試合は正に漫画の世界。開会式終了後、第一試合から一回戦最終試合まで面白すぎて控室に帰ることができなかった。

特に原vs中澤。「テイクダウンしないで打ち合う」と決意していた原君には悪いが、俺は「暴力に負ける武であってはならない。君が負けると会場のファンのみならず全国の武道家が肩身の狭い思いをする。ちゃんと武道をしている原君がどうやっても負けるわけはないが、絶対に負けないでくれ。必要ならばテイクダウンすることも大事」 と懇願した。

結果、俺の心配など杞憂。原君が見事KO勝利。一回戦ではこの試合が一番面白かったかもしれない。 2回戦からは、ちゃんと観ていないので何とも言えないが、優勝した賛否両論の奥田選手について。

彼はプロレスラーとしてプロレスラーらしく闘った。プロレスラーというものを流派として考察すれば、記者会見から闘いぶり、試合後までプロレスラーをやり切っている。おまけに直前にシュートボクシングにも出ている。漫画だ。漫画のプロレスラーそのもの!!

そして試合後から巌流島の奥田勝負論がかつてないほど盛り上がっている。プロレスあるところにイデオロギー対立有り。完璧! 対戦相手は、いや、武道側のファンも含めて皆プロレスという流派の術にやられたね。

この奥田問題については、ルールやイデオロギー、大いに語り合えばいいと思うよ。お行儀よく奥田選手も素晴らしかった・・・とか言わなくていい。自分の好きな選手側に立って大いに主張すればいい。そういうアツいぶつかり合いがジャンルを盛り上げる。それが奥田選手が残した巌流島への一番のプレゼントなのだから。

さて、各流派は奥田選手にリベンジしたいであろうが、おそらく彼は二度と巌流島に出ないであろう。彼はすでに巌流島でプロレスを証明した。もう出る意味がないのである。

どうしてもリベンジしたいならば・・・・ そう。彼の所属するDDTのリングに上がるしかない!! DDTのリングで巌流島からの刺客、若しくは○○空手からの刺客として闘うわけだ。このシリーズ盛りあがるぜ!! と、これは誰に向けて言っているのか? プロレスの舞台裏を暴露したからにはそういうつもりと受け取るしかないだろう。

毎度毎度爽やかに終わる巌流島。そこに遺恨を残したプロレスラー。そしてそれにしっかり乗っかって、それ以上の遺恨を返した空手家。 舞台裏の椅子の件、これはプロレスを八百長と言い喧嘩を売ったも同然。漫画だぜ。素晴らしい。最高じゃないか、現代の空手家。

この勝負、ファンはノレるッッ! ん? 大人の事情?? よし、いいよ。じゃあ代わりに俺がDDTに喧嘩売りに行っちまうぜ!! なんてね(笑) 。

最後にルールミーティングの時から大会終了後まで、星風選手に何度も「次、俺と闘おう」と言われた。マジでストーカー(笑) 。もしやることになったら運営さん、今度はちゃんと口頭ではなく事前に契約書交わしてください (笑)。

9.17巌流島のレポートはコチラ⇒『全日本武術選手権 in MAIHAMA』