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久々、岩倉豪の「勝手に巌流島・琉球空手達人編」タックル・投げ技の章

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お題…………特別編「勝手に巌流島」続編

 

文◎岩倉豪(小川柔術・格闘家)

文◎岩倉豪(小川柔術・格闘家)

 

古来、沖縄で発達した拳法空手は、琉球(沖縄)の地域事情で陸戦の他に海戦=船の上で闘うことも想定された技術形態である。古代の琉球の海戦は、現在の巌流島ルールに非常に近く、これは当時の琉球が貿易国であり、海賊との闘いの中で、海上戦=弓で撃ち合いから船が急接近しての船上での闘いとなり、武器、殴る、蹴るの他に崩して投げる、海に落とす、などの技法を駆使し、生死の争いの中で技を磨いて、秘伝として受け継がれてきた。

三戦立ち(サンチン立ち)は、揺れる舟板、海水で滑る床、それらに対応した闘いの根本の立ち方が、実践の中で精査され残ってきたものだ。型などは、先人の歴史でもある。今回の「勝手に巌流島」は、この船から落とす技法について、劉衛流の基本からひも解いていきたいと思う。一回技を習ったのだが、自分がいろいろな道場に赴き、学び闘い教えを乞うときに、まず一番最初に聞くことは、そこの流派の一番の基本になる練習方法である。なぜなら基本こそその流派の技法の奥義であり、基本を発展させたものこそ技であり、基本方法を習い、それだけを延々と正確に繰り返すことで、技の根幹が見えてくる。今回で3回目の「勝手に巌流島」だが、自分が教えているジムで選手と共に「劉衛流」の投げについて3週間ほど詳しく、劉衛流・池田浩二先生の映像を見ながら分析し、練習で実践してきた。この解釈は実地検証で分析した解釈であり、まだまだ研究する価値のある技法ではあるが、分析した事を自分なりに文章にまとめたので、お送りします。

劉衛流投げについて・「勝手に巌流島」解釈

人間は2足歩行の生き物であり、哺乳類で数少ない尻尾もなく胴体を中心に二本の足で重力に逆らい、自分を支える骨格構造の生き物である。投げ、相手を倒す技法は、2000年以上前に、古代ギリシャでアルキメデス、ソクラテス、プラトンなどの学者達が関わりながら理論上の完成をみたと考えられる。古代ギリシアの稀代の数学者アルキメデスは、物理学理論である「テコの原理」を取り出し、「私に支点を与えよ。されば地球を動かしてみせよう」と、物を動かすことについての発言を残している。「テコの原理」は投げ技以外にも格闘技における関節技にも使用されており、骨格を使った物理作用の原理とされている。

学者として高い知識と見識を備えた彼らは、いずれもレスリングの使い手であり、レスリングを実践し『観測者』として、技術を物理学的要素で発展に導き、競技を哲学的にまとめた賢者達としても知られている。特にソクラテスの弟子である哲学者プラトンが、紀元前427年アテナイ最後の王の血を引く貴族の息子として、古代首都アテナイに生まれている。本名はアリストクレス。レスリングの師匠であるアルゴスのアリストンが、体格が立派で肩幅が広かったアリストクレスに「プラトン」(幅広いという意味)と名付けた。以降そのあだ名が定着した。イストミア競技会のレスリングで二度優勝するほどの選手で、当時ギリシア一有名なプラトンが身分を隠しレスリングの興業に出かけ、優勝者を試合後に自宅に招待し、多くのレスリング競技者に影響を与えたと推測される資料が古代の文献に残っている。

技術の伝達は常に『観測者』が存在して初めて継続的な伝達となる

古代ギリシアの数学、哲学は現代から見ても水準が非常に高く、それらの学識的要素を使った格闘技術が発達したと思われるが、格闘技の技術は時代の社会体制に左右される。古くはローマ帝国時代のキリスト教による剣闘の禁止令、中世キリスト教によるボクシング禁止令、日本においては第2次世界大戦後の敗戦で、GHQの武道禁止令によって柔道・剣道などといった日本武道は行なうことができなくなり、このような歴史的な社会要素が多くの『観測者』が失われる時代を作っていった。

それらの歴史的な多くの『観測者』空白時代には技術衰退があり、その失われた期間の技術は、秘儀や奥義とされる技術形態で呼ばれ、どの時代にもわずかに残った『観測者』達が技術を保管してきた。現在、日本武道などで「秘伝」と呼ばれるような神秘的な名前を付けた過去の技術は、復興させること自体難しく、世間に誤解されているのだろう。今回、その一部である琉球空手・劉衛流の秘伝に属する概念が再び「勝手に巌流島」において『観測』されることになる。

さて劉衛流の投げ技をひも解いていこう。まず相手を投げる、倒すのに必要なのは、アルキメデスの言葉にある「私に支点を与えよ。されば地球を動かしてみせよう」の理論にある。

まず相手を(倒す・転ばす・投げる)目的を達成するためには、自分と相手の支点の骨格構築の状態は、相対関係にあることを理解しなければならない。まず人間の一番力が入る骨格構造の場所が支点となり、二本足を左右に均等に開き、僅かに効き手を後ろに腰を落とした状態。これは武道的・レスリング的な立ち方で構えの状態でもある。この状態で手を組み、船の舟先端の形を作る。この状態こそ骨格構造が強固となり、骨格をコントロールして投げられない態勢の形だ。相手を倒すとはアルキメデスのテコの原理こそ、物理学に支配された世界で格闘技において最大の倒す、投げるの技術根幹なのだ。

劉衛流の崩しとアルキメデスの言葉と理論を持って解釈してみる

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一つは相手の片腕を体の外側にもっていき、相手の骨格で支えられない場所に重心を崩す。二つ目は自分の体の支点を相手の骨格の重心が崩れる位置に運ぶ。

文章に表すと、自分の支点を崩さず、相手の崩れた支点を自分の作用点とし、相手の作用点に対し、自分の支点を中心に体の動きを力点として作用させ相手を倒す。実に単純で奥が深い。なぜなら劉衛流・池田浩二先生に技をかけられた時に、過去に体験した感覚を思い出した。20代の頃、合気道の達人・塩田剛三先生と立ち会った時に、パンチを打って塩田先生の顔に当たった瞬間、自分のパンチで腕が完全に伸び切り塩田先生がわずかに動いたと思ったら、空中に体が浮きあがり床に落とされた。電撃の様な追憶が脳裏に浮かんだのだ。

達人の動きとは物理法則の合理性、二本足で立つ人間の骨格・重心をいかに崩すかにある。それらの技法は各流派様々であるが、池田先生は「人間である以上、崩れる位置は同じ」と真理を簡潔に教えてくれた。劉衛流・池田浩二先生の奥義とは、アルキメデスの言葉と同様、賢者は常に同じ真理に行きつく。そこで、元パンクラス・ライト級1位の花澤大介とのスパーリングで、日本最高峰の総合格闘家と劉衛流がいかかに闘うか、検証してみることにした。

肩固めの帝王・花澤大介とは?

沖縄の蒼い空と青い海を愛し、とある事故で体に障害が残り、格闘技選手を断念しなくてはならず、現在はロードバイクに挑み第2のスポーツマン人生を歩んでいる花澤大介。彼は現役当時、総合格闘技道場コブラ会に入門した日に、全くの素人の状態でコブラ会・総帥の三島☆ド根性ノ助からタックルでテイクダウンを奪ったことがある。また、名古屋大学相撲部に練習に行っても相撲部師範に「花澤君なら3か月で学生相撲のチャンピオンになれるよ」と言われた天才だ。相撲練習後の現役相撲部員より「ちゃんこ鍋」をどんぶり7杯食べ続ける姿にドギモを抜かれるなど、怪物ぶりにおいては当代一流の男である。

必殺技の「肩固め」は総合格闘技、ブラジリアン柔術、グラップリングなどの組技系の試合で猛威を振るい、並みいる強豪を仕留めてきた。試合において花澤が肩固めの動作に入ると相手の選手のセコンドから「肩固めが来るぞ」とアドバイスが飛ぶが、そこからワニが食いついて咀嚼し逃げられないように、一度、肩固めの態勢に入れば逃げられずに何故か極まってしまう。それは神の領域に近く、その闘う一芸からついた異名が「肩固めの帝王」であった。

現役時代の花澤は70キロ契約の試合で、試合前日にサウナに16時間も入り7.5キロの減量をし、なんと計量後には90キロの体重まで上げるという、驚異的な肉体の生物である。2か月間、名古屋に合宿しブラジル人が98%の柔術道場で練習し、その急激に減る体重、急激に増える体重、そしてバーバリアンのように闘う姿を見て、小川柔術総帥アレシャンドレ・オガワ、草野柔術代表レアンドロ・クサノなど、現在世界を舞台に闘うブラジリアン柔術のトッププレーヤー達が「ハナザワハ、ニンゲンジャナイ」と感嘆する。

その驚異的な肉体を支えるのは、人並み外れた大食いにも秘密がある。2か月間、自分(岩倉)の家で合宿していた時も、いつもどんぶり3杯以上のご飯を食べ、大量の食事をしたのにもかかわらず、夜中に暗闇の厨房でゴソゴソ音がすると思い見に行くや、まるでB級ホラー映画のワンシーンみたいに厨房の冷蔵庫の扉を開け食べ物を食べてる姿を見たことがある。心臓が口から飛び出るような驚きで「何しているんですか、花澤さん!?」と聞くと、「いや~、腹が減って眠れないので食べに来ました」と淡々と答えられ、気が付くと冷蔵庫の中をカラにされる食べっぷりに、強靭な肉体を支えている秘密を目のあたりにした。

また沖縄でキング・オブ・ザ・ケージの計量直後に食べ放題の焼き肉店に行ったのだが、カレーを5杯、うどんを3杯、ごはんを大盛5杯、そして信じられない量の肉を食べ、その食べっぷりに、食べ放題の店の店主が出てきて「お手やらわかにお願いします」と花澤に助けを求めてきたことを思い出す。人間技と燃えぬ強靭な体と食べっぷりに、花澤大介のDNAには山本キッドと宗派の違う神が宿っていると思ったほどだ。

いざ花澤大介VS劉衛流・池田浩二、決戦!

何故か8ミリフィルムで撮影されたスパーリング映像を解析すると、花澤はタックルも考えた構えで左のジャブから攻めたてる。劉衛流・池田浩二は左手のジャブに対応して右手を伸ばし、自分の打撃の制空権を確保しながら、右手で花澤のジャブを外側からパーリングする。これは劉衛流のパンチ攻撃を常に外側から防御、相手の動きを制して自分のペースに持ち込む基本形である。

この防御を丁寧に繰り返し、自分の体の軸をずらしながら右ストレートを花澤に悟らせることなく丁寧に打ち込む。「まじか、まじか~!」と花澤が驚きの声を上げる。さすが花澤、パンクラスに一時代を彩ったファイターである。ジャブが読まれているのを確信しつつも劉衛流・池田浩二の攻撃を誘い込み、逆に軸をずらして踏み込み、タックルを仕掛けていった。倒される劉衛流・池田浩二はフックガードを仕掛けながら対応し、あっと言うまに花澤をひっくり返しスイープする。これはブラジリアン柔術の茶帯並みのグラウンド(寝技)対応力があることの証明だ。

そこから膠着したので、一度ブレークし立ち上がり再び向き合うと、劉衛流・池田浩二は花澤のタックルの仕掛けを読み切り、花澤に右のミドルを蹴ると、通常の方法でタックルに行けぬと考えた花澤は、蹴り終わりの引きに合わせて踏み込むが、打撃の間合いの取り方は劉衛流・池田浩二が完全に制圧していった。

残る手段はカウンターで仕掛けるしかない。だが打撃制空権を完全に制圧していると、どうしてもタックルの踏み込みが甘くなってしまい潰されてしまう。今度は花澤は踏み込み方を相撲のスタンスに切り替え、相撲取りが張り手を食らっても怯まず土俵から相手を押し出すように、一気に壁に押し込み組みつき倒し、自分のペースでパスガード→マウントポジションまで行った。さすがは「肩固めの帝王」の異名をとる総合格闘家であるが、最後にマウントポジションを取られた状態から軸をずらし、花澤をひっくり返しスイープする劉衛流・池田浩二。立ちの状態のみならず、寝技の状態でも理論を実践するとは、さすが人間の骨格を巧みに利用する理論と実践能力を持っていることを証明した。

これで沖縄・劉衛流・池田浩二先生の理論は、当代一流の総合格闘家にも十分通用することが証明された。では次回「勝手に巌流島・琉球空手達人編・最終回」で実際に一般的な格闘家に指導して、技術や闘い方が、どのように変化し結果が出ているのか? この収録日の翌日の沖縄の格闘技イベント「TENKAICHI80」に出場する私岩倉の弟子二人にアドバイスしてもらい、どのような試合結果を生み出したのか? 自分以外の選手で、達人の理論を証明したいと考え、今回はここで筆をおきたいと思います。