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スキャンダル猪木アリと7・31『巌流島』

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7月4日(月)のブロマガ………お題「異種格闘技戦の醍醐味と矛盾」

文◎田中正志(『週刊ファイト』編集長)

文◎田中正志(『週刊ファイト』編集長)

 

7・31『巌流島』有明コロシアム大会、アリ猪木40周年・格闘技イベント原点回帰として、実験ルール試合の「田村潔司vs. 元ボクシング王者」が発表された。最高に面白い! やったモン勝ちである。公平なルールとは何か? 「ボクサーvs.レスラー」に新たな発見はあるのか!? 歴史の証人になるには、CSフジ放送の視聴環境を整えるか、円形闘技場の周囲に奈落の底を表すドライアイスの海が沈む有明コロシアムに全員集合するしかない。

カード発表会見の謎を解く鍵は、アントニオ猪木のモノマネで田村が言った「試合前に凡戦になるか考えるやつがいるか、馬鹿野郎!」であろうか。フジテレビ金曜深夜『FUJIYAMA FIGHT CLUB』でも紹介され、CS放送『BOXING LEGEND』シリーズ番組にもスポット広告が入る和風テイストの新格闘技・巌流島に神風は吹くのか。またしても「世紀の凡戦」とガチバカ媒体から叩かれるのか。

マット界の炎上クライマックスが実現する。異種格闘技戦の醍醐味と矛盾を一挙に堪能できる「猪木アリ公開検証2016~巌流島決戦」は、幾千もの時を超えて(ボクサーを斡旋したスティーブ・カラコダゆかりの)キンシャサの奇跡が降臨する宿命に導かれ、参加していただいた民が語り部となって新たなる伝説は拡散していく。

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ファイト業界の画期的EPIC(叙事詩)である6・26アリ猪木が40周年を迎えた。UFC出入り禁止のジョシュ・グロス記者が、新たに『Ali vs. Inoki : The Forgotten Fight』を上梓。長編の英語版も数ある猪木アリ本リストに追加された。邦題にすれば『亡失のアリ猪木:MMA開祖伝』といったところ。別冊宝島の最新ムック刊と同じく、天使が亡くなられる前に企画が通っていた作品である。商業ベースのBOOK発売が成就したことに驚きと称賛もあれば、さらに議論が深まって悪かろうはずもない。

東洋の島国の某国営放送版では自国スターと闘った世紀の一戦の歴史的意義を30分番組枠で無視していたが、北米のアリ追悼関連でも、忘却の彼方に埋もれた試合であることは間違いない。こうして奇跡のイベントに国際的な目線からも光明が当たり続けることは感謝である。テレ朝が以前から使っているねつ造「世界で14億人が見た」という怪しい足し算の世紀の凡戦が、40年の歳月を経てYouTube動画再生数まで入れたら叩き文句が真実に化けるという究極のエクリプス、力を失う日食を起こした2016年6月の花嫁への注目が続いている。

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Wikiに頼る危険性の見本になるが、「猪木アリ戦には、真剣勝負とエキシビションの両説がある」そうだ。この論争の面白いところは、「4オンス(素手同然)だからアリ本気で真剣勝負」「4オンス(殴ったら拳が壊れる)はアリの(全力で殴らないという)エキシビション宣言」という真逆の見方があるらしい。

どうやらガラパゴス化したプロレス信者間だけのこと。世間側は当時も、ビデオ再検証が可能な今も茶番と断定。番外編だからとNHK『クローズアップ現代』アリ追悼回も取り上げていない。真逆の見方なんかない。順番で先行したウィリアム・ルスカ戦のような野毛道場での前日リハーサルの形跡がない闘いではあったが、両英雄の名誉を守るケツは決まっていた。ケツが決まっているカードをリアルファイトだと美談にするには無理がある。まして、ボクサー対レスラーを謡いながら、全力では殴らないと本人が肉声誓約までした試合フレームが前提だ。

当時営業本部長だった新間寿、大塚直樹ら新日本プロレス首脳は、ケーフェイを墓場まで持っていく業界人であり核心は話さない。あるいは当事者インタビューは、かえって全体像を見誤らせることが少なくない。

試合前8-4-1オンスの3つのグローブ選択はメタファー(比喩)

アリ猪木の真実は、「本当のがんじがらめ制約」を受けても国際親善試合を成立させたアリこそが神だったと察することに他ならない。テレ朝40周年番組が放送されて、結局はいつもの美談伝説がお茶の間に伝わっただけなのが現実なのか。Twitterだと「えっ、4オンス? 素手同然じゃん」「猪木は寝るしかなかった」一色だったと聴いたが、驚きはない。初めて御覧になった方のSNSなりのリアクションからブロガーのカクトウログさんが、「4オンスは間違い」の指摘を発表された。確かにである。但し、なんでも現代から見るためアリ猪木の当時のドタバタが見えない例ともいえる。現在市販されている4オンスのオープンフィンガー・グローブが検索にヒットしたからと、その絵を出して比較したところで、人を錯覚させるのはこういうことではないのか。

アリ猪木を語らせたら、その方の理解度が見える踏み絵になっている。リアルファイトでの異種格闘技戦がどうなるのかも試されてない1976年、マット界史上最大の誤解が曲解を呼び、プロレスをよくわかっていない通訳さんなり、(意図的可能性も捨てきれない)誤訳テロップが絡むという伏魔殿の構造が、無数の関係者含む語り部を生んだ特異な伝説イベント例である。後出しじゃんけんの評論家解説や文化人プロレスファンが加わるたびに、さらに珍騒動が多重に歪曲化されていった、日本人ファン気質を海外目線から研究する際のケース・スタディーに違いない。さらに、ブロガーが意見を出せば、米国人UFC記者が長編本まで上梓という拡がりである。

試合前8-4-1オンスの3つのグローブ選択はメタファー(比喩)、あるいは寓話だった。1オンスというのは手袋でしかないからだ。一方で「4は間違いで8だったのではないか」としてもまた本質から遠ざかってしまう。重要なのは、アリ側が「4オンスを選択した」と、日本語実況でメッセージが伝えられた点だけだ。当初のニューヨーク「プラザ合意」から一貫して、エキシビションだから練習用を使うとアピールしてきたが、いざリング上では通常の世界戦用グローブ装着だとしても、全力で殴らないと誓約している以上、大きさにも意味はない。

アリは高みを行く者、ギリシャの光明神Hyperīōnであり続けた。ボブ・アラム=プロモーターも証言するように、アリというアイコンがいなければ、アメリカ合衆国で黒人初のオバマ大統領は誕生しえなかった。しかし、アリは聖人ではない。しゃべることの出来るアリをアンジェロ・ダンディ参謀が担いで「作られた二度目のチャンプ時代」とする検証もある。八百長もやったし、スレスレ試合も、相手を追い込んで優位に立つ教唆もあったとされる汚れた戦歴なのだ。

例えば宿命の1976年、猪木戦のためアリ軍団ご一行が来日するほんの2週間余り前の5月24日、アリはドイツでかませ犬のリチャード・ダンを5RTKOで倒して王座防衛している。試合間隔からしても世界ツアー計画、金銭回収期のエキシビション試合予定なのが読めよう。

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当時は選手の怪我だけでなく会場の都合などで日程がズレたり延期なることも珍しくなかったことがデマを生んだのだろうが、血栓症入院で次戦が飛んだという逸話も事実ではない。猪木戦の前後という重要度からは、9月28日ヤンキースタジアムで決行されたケン・ノートン戦は外せない。なにしろ結果こそアリの手が挙がったが、「判定の八百長試合」として悪名が高いからだ。

アリは、これまでで一番軽い体重で猪木戦に来日している。以前からアリの使う特注グローブは普通ではない細工伝説があり、猪木戦にしても石膏注入説が取り上げられてきた。握手風に手を合わせると大きく広がるグローブだから、練習用特注だった気がするが、尾ひれ伝説はともかく、猪木側はアリのグローブがどうかなんか考えてなく、そこまで気が回らなかった。真相は任せていたと思わる。なにしろ、選手片方だけがグローブつけて闘うという、公平ルールなんか見た目にも成立していない世紀の大一番だった。

マスコミにがんじがらめにされた現場を抜かせば歴史の隠蔽になる

「普通のグローブじゃない」風説の流布とは裏腹に、2ヶ月前の姫路大会開始前でも、井上譲二記者が証言するように、すでにアリキック特訓を始めていた猪木だが、この回だけ大きな靴を特注したことは事実である。足の裏に金板入れた尾ひれ伝説の根拠にもなったが、猪木もビビっていたのだ。普段はインディアン・デスロックに入りやすい、薄い羊の皮シューズが猪木のお気に入りだった。

テレ朝のリミックス版音声検証で猪木は「踏み込めなかった」と試合後漏らしているが、都合よく解釈されていると考える。結局、大凡戦になるがんじがらめを強いたのはマスコミだった。「打ち合わせて協力したムーブを見せるインチキはしてません」を、契約通り遂行した結果が世紀の大凡戦だ。ボクシング記者の「ルスカ戦のような八百長なのか?」追求だけではない。地上波の事前の煽り番組でも、残酷なまでに「八百長か真剣勝負か?」とズバリ聞いてくるマスコミに「真剣勝負」を断言した手前、リハーサルがやれなかった。不用意に突っ込んだらいくら「全力では殴りません」宣言のアリでも、殴って応戦せざるを得ない。先週号の詳細は繰り返さないが、突っ込んだあとにレフェリーがわけるから、踏み込んでも結局は皆さんの期待するアクションはなかったのだ。

天使のモハメド・アリが若気の到り、勇み足のアントニオ猪木を成熟させた世紀の一戦の歴史的意義は変わらない。

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▼週刊ファイトのアリ猪木徹底追及第4弾!

7月7日号G1選抜不安W1リストラ/アリ猪木新間寿6・26DEEP北岡/K-1ゲーオ/UFCハント-レスナー

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