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40年目の再検証を経て感じる、猪木アリ戦ルールの謎

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niconico動画の『巌流島チャンネル』でほぼ毎日更新していた「ブロマガ」が、オフィシャルサイトでパワーアップして帰ってきました。これまでの連載陣=谷川貞治、山田英司、ターザン山本、田中正志、山口日昇に加え、安西伸一、クマクマンボ、柴田和則、菊野克紀、平直行、大成敦、そして本当にたまに岩倉豪と、多種多様な方々に声をかけていく予定です。ぜひ、ご期待ください!

6月14日(火)のブロマガ………お題「40年前の猪木 vs アリ戦を見て、異種格闘技戦を考える!」

文◎安西伸一(フリーライター)

文◎安西伸一(フリーライター)

 

40年前の猪木vsアリ戦には、公にされない約束事が、両者の間にあったのだろうか。そもそも実際どんなルールだったのか、直前まで変更が繰り返されたそうだが、最終合意したルールの和訳も英文も見た記憶がない。

梶原一騎氏は生前最後の本で、この一戦の舞台裏ともいうべき話を書いているが、それは新間寿氏やケン田島氏の証言とまったく食い違うものなのだ。

当時、現場にいたプロレス取材の先人のひとりから、「記者仲間のみんなで、この日のことは墓場に持っていこうと約束したんだ」と聞いたことがある。

幾人かから断片的に当日の話を聞いたことがあるが、それはここでは書かないことにする。

ここからは私見になるが、接近戦において、猪木は自分がロープを背にした状態から、中央に向かってタックルをすれば、いくらレスリング選手のような素早いタックルではないにしろ、リング中央でアリからテイクダウンを取れる可能性はあったはずだ。そうすればアリのロープブレイクは防げたと思うのだが。

逆に、アリの単発のジャブは簡単に猪木の顔面をとらえていたのだから、どう考えても連打を打てば当たっていたはずだ。

でも、どちらもそれをしなかった。

猪木の蹴りが効いていないとは言わないし、ヒザの横などをピシャッと蹴られたらすごく痛いことはわかるが、あれでアリが血栓症になったというのなら、キックボクサーやフルコンタクト空手の有段者で血栓症になっている人は、たくさんいるはずだ。足を無防備に蹴られ続けたら、腫れるのは当たり前だ。最後までよく立っていたとは思うが、血栓症にさせたことが、さもすごいことのようにいわれるのは、僕にはわからない。

写真(サムネ)

一番びっくりしたのは、猪木がグラウンド状態から立ち上がる時、今で言う、いわゆる柔術流の立ち方に近い起き上がり方をしていたことだ。起き上がる時、足を折りたたんで、顔面を相手から遠ざけて、手で顔面を防御しながら、蹴られないように立つ。これはバーリトゥードを闘う柔術家の基本のひとつであり、護身術たるブラジリアン柔術の基本のひとつだが、誰に教わったわけでもなく? 猪木がこの立ち方をしていたのには驚いた。

イワン・ゴメスが新日本に参加するのはアリ戦のあとなので、ゴメスに教わっているはずもない。10代の時、猪木はサンパウロ郊外の田舎に住んでいたことがあったが、そのとき柔術をかじったという話もきかない。

それから、猪木もアリも共に、相手の足をアキレス腱固めに取れそうなシーンが何度かあったが、当時はこのサンボの技は、猪木も知らなかったのではないか? 関節技、絞め技も禁止という条項があったのなら、足を取っても、どうにもしようがないが。

まあとにかく、久しぶりに肩や首が凝るほど、真剣に試合を見てしまった。疲れた。いまでは猪木のように寝ていたら、相手がヴァンダレイ・シウバでなくても、オープンルールだったら踏みつけが跳んでくるだろう。

ボクシングルールで世界王者になったアリは、ボクシングの世界の中では偉大な存在だし、ベトナム戦争への徴兵を拒否したことには心打たれるものがあるが、現代の進化した総合格闘技を見慣れている者からしたら、猪木vsアリは、勝敗を競い合っているようには見えないのではないか。

現代の総合格闘家たちは、薄いオープンフィンガーグローブでバチバチ殴り合い、接近戦をいとわず、勝ちを取りにいく。KOやタップアウトのシーンがあれば、会場は大いに盛り上がる。ファンから賞賛されるのは、リスクを恐れず勝負にいくファイターたちだ。

個人的にはヒクソン・グレイシーの、相手を封じ込めて行く闘い方が理想だが、猪木vs アリを神棚に祭り上げるかのように持ち上げる風潮があるのだとしたら、それはどうにも、僕には理解できない考え方だ。最初に、枠をとっぱらった何かをやろうとしたことには敬意を表するが。

巌流島に興味を引かれるのも、それが“最初の一歩”だからなのだ。